日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『わたしはあの子と絶対ちがうの』
『わたしはあの子と絶対ちがうの』
とあるアラ子 イーストプレス ¥926+税
(2016年1月7日発売)
だれかに認められたい、スゴイと言われたい――といった自己承認欲求は、だれしもが持っているもので、向上心の源でもあるが、それが強すぎる場合、往々にして自分で自分を苦しめることにもなる。
『わたしはあの子と絶対ちがうの』は、そんな自己承認欲求の塊みたいな女の子の実録コミックエッセイだ。
30歳までに結婚して子供を生む予定で、ディズニーランドでデートがしたいと考える、ごくフツーの女の子だったアラ子(定職なし・未婚・アラサー)は、知人の紹介で出会ったライターの男性とつきあうことになる。
ももクロ~某インディーズ映画まで、彼の周囲の「わかってる」人たちの会話についていけず、コンプレックスにさいなまれ、必死で学習してSNSで「わかってる自分」をアピールするアラ子の姿は、まさに渋谷直角への当事者からのアンサー。ネタや固有名詞がいちいちリアルすぎて、痛すぎて、サブカルこじらせアラサーならずとも、身につまされずにいられない!
他人と自分を比べて安心したり、自分以外がみんな幸せそうに見えて落ちこんだり、だれかをディスることでプライドを保とうとしたり……といったことは、多かれ少なかれ、誰しもが思いあたることだろう。
だが、そんなことをしていても「幸せ」になれるどころか、自分の醜さに心が荒み、ますます不幸になるばかり。
皮肉にも、ホストの元彼の指摘により、そのことに気づいたアラ子が、わたし、このままじゃダメだ! 変わりたい」と決意するくだりには、雨宮まみさんの対談集『だって、女子だもん!!』の小島慶子さんの「嫉妬を分析していくと自分自身の問題が見える」という言葉を思い出したり。
現実にはぬぐいがたいコンプレックスだらけで、そうさ、僕らは世界にひとつだけの花――という境地には、なかなか達せないけれど。
どんな勝ち負けレースの先にも「幸せ」はない――と気づけば、ほんの少し、生きやすくなれるはずだ。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69