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『月と指先の間』第1巻 稚野鳥子 【日刊マンガガイド】

2016/03/16


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『月と指先の間』


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『月と指先の間』第1巻
稚野鳥子 講談社 ¥581+税
(2016年2月12日発売)


マンガに登場する少女漫画家といえば、ご存じ矢沢あいの『ご近所物語』の主人公・実果子ちゃんのママ。ポワーンと優しそうな雰囲気が印象的でございました。

だから『月と指先の間』を読んでびっくりした。
「こ、こ、こ、こんなに赤裸々に描いちゃっていいんすか……」と、思わず単行本を手から落としてしまうくらいの赤裸々っぷり。(いや、ホントのとこはわかんないけど。要はそんだけ生々しいのだ。)

主人公は、御堂アン。月に2~3本の連載を抱える売れっ子少女漫画家。
思わず「私はキカイの体じゃないっ」と叫んでしまう締め切り中のど修羅場から、ひと月に支払うアシスタント料などの経費や、メディア化にまつわる権利問題、コミックスの判型や原稿料の交渉、さらには急病で連載を休んだ場合の諸々の問題(ひと月の収入がまるごとなくなるとか)などなど、これまでの「漫画家が主人公のマンガ」では見たことないほどの生々しさでお送りしておりまーす☆

さらにびっくりなのが、主人公が55歳というところ。
ええ、1巻の表紙で頬杖ついていらっしゃる可憐な方が主人公・アン先生(55)でございます。
いくらなんでも年齢と見た目にギャップありすぎじゃあ……と思うでしょ? でも読んでいくうち違和感がなくなっていくんだなぁ。
腰痛持ちだったり、仕事中に「中年男の匂いがかぎたい……」とか言ったりするからかしら。

今は元・担当編集者と不倫をしているものの、10歳年下の「笑わない」編集長ともすったもんだが起こりそうな気配。
でも、アン先生は四六時中マンガのことを考える。恋に揺れながらも、月が昇ると起きてマンガを描き、月が沈むと眠る生活を続ける。

「どこかで足を止めたら きっともう描けない…… 足を止める時はきっと 筆を折る時―――…」
どんな人にだって、いい時があれば悪い時もある。だから何かを続けるのはつらいし、難しい。
それでもアン先生は、描き続けるのだ。

マンガは、生身の人間が描いている。そのことをあらためて教えてくれる『月と指先の間』を読めば、よりいっそうマンガがいとおしくなる。



<文・片山幸子>
編集者。福岡県生まれ。マンガは、読むのも、記事を書くのも、とっても楽しいです。

単行本情報

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