365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
3月13日は高村光太郎(詩人・彫刻家)の誕生日。本日読むべきマンガは……。
『梅酒』
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1883(明治16)年3月13日、詩人であり彫刻家の高村光太郎が、東京の下谷(現在の上野)で生を受けた。
父は彫刻家の高村光雲である。
光太郎といえば智恵子、というほどに、彼が妻・智恵子のことを綴った詩集『智恵子抄』はあまりにも有名だ。
「智恵子は東京に空が無いと云ふ」から始まる「あどけない話」、亡くなる間際の智恵子の様子を描いた「レモン哀歌」などが特に知られているが、今日は『智恵子抄』にある『梅酒』を題材に取ったマンガをご紹介したい。
14歳の瀬尾ゆえ。
家族はほとんど家におらず、自分でも家で何をするでもない。
所在なくただ日々を過ごしていた彼女が、夜の街で出会った公務員の男性・古畑。
ゆえは古畑について彼の家まで行ったが、古畑はゆえに手を出したりはしなかった。
食事をさせ、帰りたいなら送っていくとさえ言う古畑の接し方に、ゆえは驚き、感謝する。
そんな彼が口ずさんだ詩、「梅酒」。
ゆえは偶然、その著者が高村光太郎であることを知っていた。
それを古畑に誉められた時、彼女のなかで何かが芽ばえ始めて――。
父と娘ほど年の離れた2人の関係は、ぎこちなく、ほのかにあたたかい。
ゆえの古畑に対する想いも、恋ではないものの、ほかに類を見ないかけがえのないものになっていく。
物語に流れる空気感は短編映画のようで、静かな間合いのなかに、言葉にできない何かが潜んでいる。
本作は表題作の「梅酒」ほか4本を収録した短編集だが、どれも違った味わいがあり、さわやかな絵柄と相まっていずれも魅力的だ。
なかでもやはり「梅酒」は秀逸で、光太郎の詩の扱い方もとても素敵だ。
本作を読む時は古畑のように、声に出して詩を口ずさんでみるのもよいのでは。
詩を味わうことで、マンガの味わいもまた深まるはずだから。
<文・山王さくらこ>
ゲームシナリオなど女性向けのライティングやってます。思考回路は基本的に乙女系&スピ系。
相方と情報発信ブログ始めました。主にクラシックやバレエ担当。
ブログ「この青はきみの青」