日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい！WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー！

今回紹介するのは、『寺島さんは悟っている』

『寺島さんは悟っている』第1巻
浦津ゆうじ 芳文社 ￥619+税
（2016年4月7日発売）

不安が多いこの時代、求められているのは悟りなのだと思います。

主人公の寺島さんは、タイトルのとおり悟っている。
欲はほとんどない。何か身のまわりであっても、すべて飲みこむ。

寡黙で、多くは語らない。
人には優しい。諍いがある場合は、自分のものをもすんなり差し出す。
慈悲の人であり、平穏の人だ。

彼女は周囲の人にめちゃくちゃ好かれている。
別に明るいわけじゃない。周囲を笑顔にするわけでもない。

悟っている、と言われるゆえんは、すべてを受け入れる姿勢にある。
お寺の娘である彼女のもとには、老若男女問わずいろいろな人が相談にくる。しかし彼女は説法をすることはいっさいない。みんなの話を黙々と受け止める。

人間、他人が悩みを全部受け入れてくれると、とても気が楽になるもの。心が落ちつきを取り戻し、視野が一気に大きくなるからだ。
苦しいことも楽しいこともすべて「そういうものだ」と受け入れる彼女。
ギャグマンガなので、悟りきった顔でうんうんと話を聞く様はちょっと滑稽だが、読むにつれて彼女に話を聞いてもらいたくなる。きっと、なんでも受け入れてくれるだろうという安心感が半端ではない。
もちろん、彼女が悟ったのには大きな理由があるが、そこは読んでみてほしい。

『サチのお寺ごはん』では、不幸な生活にくたびれきったヒロインがお寺のスローライフにいやされていた。
『左門くんはサモナー』の天使ヶ原さんは欲がなく、クラスメイトにあまりにも親切なため、みんなから仏と称されていた。

新しい幸せを勝ちとるべくがんばり続けられる人はとても幸せだろう。
しかし今ある現状を受け入れ、満足する悟りの生き方もまた、幸せなのだ。

＜文・たまごまご＞
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」