日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『ゴッサム・アカデミー』
『ゴッサム・アカデミー』
ベッキー・クルーナン&ブレンダン・フレッチャー(作) カール・カーシル(画)
内藤真代(訳) 小学館集英社プロダクション ¥2,200+税
(2016年4月20日発売)
犯罪と欲望が渦巻くゴッサムシティといえば、言わずと知れた暗黒の騎士バットマンのホームタウンである。
犯罪街の代名詞になっているが、歴史ある巨大都市であり、住人は犯罪者と犠牲者ばかりではない。富裕層、中間層まで含めて多くの人々が生きている街だ。
アメリカとしては古い歴史を誇る街であれば、良家の子女が通う寄宿制の名門校があってもおかしくはない。そこを舞台に展開されるコミックスが、今回紹介する「ゴッサム・アカデミー」だ。
同作の主人公となるのは15歳のオリーブ。
彼女は夏休みを経てずいぶん影を帯びた少女になっていた。素敵なボーイフレンドとも距離ができ、親友の誘いにも乗りきれない。
気乗りしないまま、旧校舎に潜む幽霊騒ぎをめぐる探偵ごっこに巻きこまれていく彼女だったが、意外にも自分に深く関わる事実を見出していく。
その過程で、TRPGオタクの親友マップスをはじめとする個性的な仲間に囲まれ心を開いていき、学園のなかで居場所を見つけることになる。
いったいあの夏に何があったのか、学園に現れたバットマンの目的とは、そして学園の文字どおり壁の向こうに潜む秘密とは……?
アメリカのコミックスにおける日本マンガ・アニメの影響はこの約20年で徐々に知られるようになってきたが、本作の特徴は、絵柄だけでなく話のスタイルまで、それも少女マンガの文法を深いレベルで理解し、ゴッサムシティとバットマンという舞台で消化しているところにある。
今までもこうした取り組みには前例はあったが、いわゆるメインストリームと地続きな、DCユニバースのひとつとして取り入れるのはなかなか珍しい例だ。
映画『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』で見られたような、あるいはコミックであれば『ジャスティスリーグ:誕生』で見られたような、空が赤く燃えあがり大地を揺さぶる激闘が起きる一方で、同じ世界で少年少女探偵団が冒険を繰り広げている……と言えばアメコミというジャンルの持っている可能性の幅がよくわかる。
アメコミ、特にヒーローコミックスは、ヒーローとそのあり方を突きつめていった結果、様々なジャンルを内包していくようになったことがわかる好例と言えるだろう。
バットマンのいる街で、学園という自分たちの舞台を与えられた子どもたちが、瑞々しく交流しながら成長していく姿をぜひ見届けてほしい。
<文・Captain Y>
アメコミオタク。クリエイター・オリジナル作品専門の邦訳アメコミ出版社Sparklight Comicsから翻訳を担当した『ファタール』、『ベルベット』、『デッドリー・クラス』、『アクアパンク』が発売中。
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