『世界でいちばん大嫌い 完全版』第1巻
日高万里 白泉社 800+税
8月3日は「ハサミの日」。「8」と「3」の語呂合わせからきていることはすぐにおわかりですね。
有名な美容家で山野学苑創設者である山野愛子さんの提唱によって定められた記念日で、毎年、東京・芝の増上寺などで使えなくなったはさみの供養が行われている。
なるほど、我々一般人には「はさみの供養」といわれてもピンとこないところがあるが、美容師にとっては大事な仕事道具。美容師が腰につけた、革製のホルダーからはさみの取っ手をのぞかせているのはいかにもプロフェッショナルという感じでかっこいいものだ。
本日紹介する『世界でいちばん大嫌い』は、女子高生・万葉(かずは)とイケメン美容師・杉本の、ひとクセある者同士のラブコメディ。
サラサラの黒髪ストレートヘアで180センチ近い長身。万葉は高校でもちょっと目立つ存在だが、男勝りでおしゃれには興味のない様子。しかし、その勝ち気な性格も含め「磨けばもっといい女になる!」と目をつけた杉本は「カットさせてほしい」と迫るも、万葉は噛みつかんばかりの勢いで拒否するのだ。
杉本を「気まぐれでふざけた男。世界でいちばん大嫌いな男!!」とまで思っていた万葉だが、ふとしたときに見せる彼の優しさに気づき、少しずつ意識するようになっていく。
初めて杉本に髪をカットしてもらう……一対一の時間を経て、万葉のなかで杉本の存在は大きくなり始める。とはいえ、なかなか自分の気持ちに素直になれない万葉のこと、恋が進展するにはけっこう時間がかかるのだけど。
女子高や家庭での生活ぶりもたっぷり、軽妙と真剣さが入り交じる会話も本作の魅力。恋や進路に思い悩みながら一歩一歩大人になっていく万葉の姿がまぶしい。
ちなみに本作は、万葉を長女とする三男・三女の兄妹を主人公とした「秋吉家シリーズ」の第5弾に当たる。万葉をはじめこの兄妹をめぐるストーリーをもっと読んでみたい方は、単行本『秋吉家シリーズ 完全版』もチェックしてみてほしい。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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