日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『戦国機甲伝クニトリ』
『戦国機甲伝クニトリ』 第1巻
あさりよしとお リイド社 ¥583+税
(2016年9月28日発売)
あさりよしとお先生が「コミック乱ツインズ戦国武将列伝」で戦国ものを連載するということで注目された『戦国機甲伝クニトリ』の第1巻が発売中である。
時は架空の戦国時代。
武田、今川、織田、徳川など大名(全員女性)がひしめく乱世において、戦を決する最大武力は“武将”と呼ばれる人型機械だった。
人間の5倍も6倍も大きな甲冑の姿形をもつメカが激突する戦場で、狙われる「首級」とは“武将”の頭部パーツを指す。
しかし、織田信長だけは、そんな世界のありように疑問と不満をもっていた。
もともと、人型機械は源平合戦の以前に帝から武士団へ下賜された儀礼用のものに由来しており、メンテナンスを行う技術者は帝の直轄で手出しできない。
さらに燃料のコストが尋常ではなく、維持にかかる各国の負担は大きい。
つまり大名たちは、自分ではないだれかの作った武器でだれかのうながす戦い方を続けるために、だれかの都合にしたがって資源を消費させられているのだ。
これではいったいなんのための戦いだというのか?
「誰かにやらされている戦ではなく 自分の戦を創ろうとは思わんのか」
これが本作における織田信長をかりたてるモチベーションとなる。
か、かっこいい……!
第1巻では、甲斐の武田騎馬軍団を織田・徳川連合軍が打ち破る長篠の戦いを幕開けに、今川義元を討つ桶狭間、秀吉によるいわゆる一夜城の逸話など有名な史実のイベントに毎回“武将”という独自設定をからめていく。
そのなかで絶妙なのが、“武将”の燃料が酒精(アルコール)である点だ。
“武将”を動かすには酒が必要→酒を作るには米が必要→米は農民が作るもの……。
機械がたった数歩あるくために、大人が一日食える量の米が使われる!
ということで、現実にないガジェットを組みこみつつも、国を動かす大名の野心から搾取される農民の苦労まできれいに線をつなげて、現実にもあった権力構造を示す理路の整え方は、さすがシニカルなユーモアあふれるSFマンガの超ベテランだけある。
また、単純にロボ対決だけでかたづくわけでもなく、巨大メカの足もとにいる随伴歩兵など、生身の人間が決め手となる戦がちょくちょくあるのも設定の活かし方に奥行きを生んでいる。
とくに雑賀衆が信長にいっぱいくわせるくだりは、人がメカを補う戦法のエッセンスが輝いているので必見だ。
かくして、ひと筋縄ではいかないスチームパンク歴史劇が楽しめる本作。
続巻が今から楽しみである。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメやマンガ、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7