日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『姉なるもの』
『姉なるもの』 第1巻
飯田ぽち。 KADOKAWA ¥570+税
(2016年12月17日発売)
著者が同人で発表していたマンガをもとに「電撃G'sコミック」で商業連載化された『姉なるもの』の単行本第1巻が、昨年12月から発売中である。
主人公・夕(ゆう)は、父母を亡くして以来ずっと親戚をたらいまわしにされて育った、内気で繊細な男の子。最後の引き取り手だったおじさんが入院して独り暮らしを余儀なくされた矢先、不思議な体験をすることになる。
入ってはいけないといわれていた古い蔵のなか。
その奥に隠された地下階で、ひとつの超自然的存在を呼び起こしてしまったのだ。
先端が生き物のようにうごめく、黒く長い髪。
真っ白い肌がつやめく豊満な身体。
獣のような2本の角、ヒヅメのついた脚。
そして、まがまがしい姿と対照的に、愛情深そうにほほえむ女性の顔。
悪魔とも邪神とも呼ばれるその存在は、夕に「あなたの願い事はなあに?」と尋ねる。
恐ろしさに圧倒されながらも、少年の頭をよぎったのは、自分の人生に足りなかったもの。
一番欲しかったもの。
「僕の家族に―――お姉ちゃんになってください」
願いは受理された。
外なる神は心さびしい人の子の求めに応じて肉体をまとい、「千夜(ちよ)」を名乗って姉なるものへと化身する。
森に囲まれた広い屋敷で“姉弟”2人きりの閉じた生活が始まり、夕と千夜お姉ちゃんはあたたかく、そして官能的な触れあいに耽(ふけ)っていく……。
というのが本作の大筋となる。
劇中に出てくる「冒涜的」などの独特なフレーズをみれば、ピンとくる方は多いだろう。
つまりはこれ、クトゥルフ神話の世界観を活かした作品なのである。
千夜さんが最初に名乗った「千の仔孕む森の黒山羊」は、豊穣の母神という性質を持つ、シュブ=ニグラスの異名だ。
年上お姉さんの包容力とかわいらしい男の子の組みあわせのドキドキ感が真骨頂な「おねショタ」を高濃度に煮つめたうえで、その包容力の根源にコズミックホラー設定を敷くという、発想の奥行きがすばらしい。
弟にとってお姉ちゃんとは、悪魔で、天使で、女神で、邪神で、そのすべて。なんという説得力。
「弟」の夕くんが、ただ甘やかされたりふりまわされたりするだけではないのもいいですねー。
人間世界のことがわからない千夜さんへ親身になり、人が人を思うように心配するけなげさはまさにおねショタ弟の鑑!
お姉ちゃんのほうが弟の言動にきゅんきゅんときめいて、逆に影響を受ける様子も、本作の大きな見どころとなっている。
また、ビジュアル面では、自由に変形する触手でもある、黒髪ロングヘアーの描写が必見だ。
長い髪の房先が夕くんの耳奥へすべりこんで耳掃除をしたり、お風呂で全身すみずみまでからみついてごしごし洗ったりと、すさまじくフェティッシュな絵面が随所にちりばめてある。
「この黒ロンマンガがすごい!」があろうものなら、本年度はこれを上位に推したいところです。
さて、本作は出だしから、夕くんが思い出語りするナレーションとともに進行する回想録の形式をとっている。
どうも“姉弟”の生活は短いひと時のものとなってしまうらしい。
だが、それでいて「拗(ねじ)れた因果の果て」など気になる表現があり、ただ別れるだけではなさそうなこともほのめかされている。
2人の関係はどうなるのか……ストーリー面でも強く興味をひく内容だ。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメやマンガ、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7