日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『怒りのロードショー』
『怒りのロードショー』
マクレーン KADOKAWA ¥680+税
(2017年1月30日発売)
血わき肉おどるアクション映画。
背筋も凍るホラー映画。
星空と想像力のかなたへはばたくSF映画。
勇気と友情が輝くキッズアニメ映画……。
いわゆるジャンルムービーをこよなく愛する男子高校生たちが、学校で、登下校中の路上で、自宅で、レンタルビデオ屋で、とにかくいつでもどこでも“この映画が好きなんだ!”とか“この俳優が好きなんだ!”という持論をぶつけあう映画トーク日常マンガ、『怒りのロードショー』。
WEBマンガとして連載され注目を集めてきた本作が今年に入ってついに商業単行本化され、ただいま好評発売中である。
見どころはやはり、実在の作品や監督・俳優の名前をガンガンあげて、あれがいい、これがおもしろいと勝手放題にいいつのる情景そのものだろう。
『パイレーツ・オブ・カリビアン』は、ジョニー・デップ演じるジャック・スパロウのキャラがよかった、しかしイケメン俳優ならだれでもジャック役に合っていただろうか?
いや同じイケメンでもジェイソン・ステイサムが演じてたらあそこまで大ヒットはしなかったろう。
でも見てみたいね、ステイサム無双の海賊映画。そうね。
こないだ『28週後……』観たよ、ゾンビ映画の最高傑作だね! いやいや走るゾンビは不気味さに欠ける、やっぱりゾンビは歩いてこそゾンビでしょ、っていうか『28週後……』はウィルス感染者で厳密にはゾンビとは違って云々。
スピルバーグの映画は全部観た? いや『E.T.』観てなくて。
なにっ、スピ映画好きなのにどうして観てないんだ! 『E.T.』はいいぞ! それも観るならまずはオリジナル版! CGと未公開シーン増し増しの20周年はその次な!
などなど。
へんにマイナーへ走らず、多くの人に通じる有名どころをお題にするので間口が広く、とても親しみやすい内容だ。
なにしろ著者のペンネームは『ダイ・ハード』の主人公ジョン・マクレーン、作品名は『ランボー3/怒りのアフガン』の「怒りの」にならっているわけで、そのノリたるや推して知るべしだ。
個人的にぐっときたのは、主要人物のひとり・まさみが、劇場版が多数あるアニメ『プリキュア』シリーズへの愛をつらぬく回。
いい年をしてオタクなんて気持ち悪いと姉から辛辣な全否定を投げつけられるまさみくんは、落ちこみかけながらもプリキュアにもらった心の強さで踏みとどまる。
そして彼のまわりには、年齢も性別も好き嫌いも越えて絆をむすんだ映画ファン仲間たちがいることを改めてかみしめるのだ。
映画にかぎらず、なにかを愛好する気持ちを抱く人間すべてに通じる大切なことがつまった一編で、必見である。
なお、いまWEB連載中で商業書籍化もされた映画トークマンガという共通点をもつ作品に、『木根さんの1人でキネマ』がある。
こちらはひとりで映画愛をこじらせる社会人女性を描いており、屈託ない男子高校生たちの映画愛コミュニティを描いた本作とはいろいろな意味で同軸対称という感じなので、両作あわせて読むと、相乗効果でどちらのおもしろみも増すだろう。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメやマンガ、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7