当たり前の日常が愛おしく感じられるような作品を
――「漫画家になろう」と決意したのはいつ頃ですか?
茜田 高校卒業くらいの頃に「漫画家ってどうかな」と友だちに話したところ、一笑に付されてしまったんですよね。結局、普通にサラリーマンになって働いて、全然絵も描かなくなっていたんですが、仕事を辞めて時間ができた時に、また絵を描くようになって。pixivなどで公開したら編集さんからお声がけいただいて、初めてのオリジナルでデビューすることになったんです。
――それが文乃ゆき名義で発表されている『ひだまりが聴こえる』ですね。『ひだまりが聴こえる』シリーズも3作目が刊行されましたが、『さらば、佳き日』を描く際との相違点はありますか? どちらも主人公の恋愛のみならず、周辺の人々を含めて形成される大きな意味での「人間関係」を大事に描かれていますよね。
茜田 『ひだまり』は主人公がわりとストレートな言動の子で、よく動いてくれるので話を作りやすいところはあります。桂一や晃はどちらかといえば大人しいので「どうしようかなー」と悩むこともしばしばなんですが。共通してるのは、お察しいただいている部分で、人とのつながりみたいなところは描きたいテーマのひとつです。ほかにも描きたい話はたくさんありますが、総じてやっぱり、どこかしら恋愛とか人とのつながりに重きを置いてますね。
――『ひだまり』はボーイズラブ作品ではありますが、難聴者の抱える問題なども掘り下げられていて、読みごたえがあります。
茜田 「伝えたいと思うことは必ず伝わる」と昔お世話になった方からいただいた言葉は、作品を描くうえでとても大切にしてます。
――影響、感銘を受けたと思う漫画家さんは?
茜田 こうの史代先生のような、柔らかい線が描けるようになりたいとずっと思っています。あたり前の日常の風景を、すごく優しく愛おしく感じさせてくださる作品の数々が大好きです。
――なるほど、茜田先生の作品に共通するところがあると思います。微妙な心情を映しだす表情にしても、風景の切りとり方も雄弁にドラマを物語っていると感じますが、作画ではどんなところにこだわっていますか?
茜田 あんまりこだわりはないですが、なるべく背景は描きこみたいほうです。筆が遅いので全然追いつきませんが……。
――マンガ以外のジャンルからも、作品のヒントを得たりすることはあるのでしょうか。
茜田 岩井俊二監督の映画がとても好きで、かなり影響を受けてます。小説、映画、音楽それぞれに名前買いするお気に入りの作家はいますね。
――最近お気に入りのマンガがあれば教えてください。
茜田 ちょっと前ですが編集の方からいただいた、シモダアサミ先生の『中学性日記』がおもしろかったです。己の黒歴史時代とか思い起こされて、懐かしくなったりしました。
――では、最後に読者の方へのメッセージをお願いします。
茜田 これからも手に取ってくださった方に、少しでも楽しんでいただけるような作品がつくれるよう、精進したいと思いますので、見守っていただけたら幸いです。ここまで読んでくださりありがとうございました。
――本日はありがとうごさいました。
取材・構成:粟生こずえ
<インタビュー第1弾も要チェック!>
【インタビュー】茜田千『さらば、佳き日』つがいのような2人――“夫婦”と偽る兄妹のせつない恋物語は、じつはSNSでの“あるひと言”がきっかけだった!?(仮)