マンガだからできるドタバタ、ムチャクチャを楽しみたい
――ヒロイン・コココを6歳に設定したのは?
林 幅広い年齢の人に読んでもらえる作品にしたかったというのはあったかもしれません。小難しいことを書いてしまった部分もありますが、コココの無邪気さ、まっすぐさがこの作品の魅力だと思って描きました。
――いわゆる美少女というよりは、表情の豊かさがかわいいですよね。笑顔だけでなく、ふくれっ面をしたり泣いたり、鼻をほじったりと見飽きない(笑)。
林 子どもの等身大な部分と、マンガ的なムチャクチャさを発揮できるキャラクターに設定したいと思いました。
――読み始めてまず掴まれたのは1話でコココが制止を振り切って魔界の門を突破するシーンです。10ページあまりのページ数を割いてて飽きさせないのがすごい。
林 見せ場だったので(笑)。コココのまっすぐさを表現したいという気持ちはありましたね。ここは最初に投稿したときから長かったです。
――扉を蹴破るカットはバトルアクションっぽく迫力満点。華麗なステップで警備を抜き去るところはスポーツマンガばり。かと思えば昔のマンガっぽい表現があったり。このあたりはほぼサイレント。マンガ表現を自在に使いこなして、見せますね!
林 足がくるくる渦巻きになるのは使ってみたかったです(笑)。
――そのあたりの「マンガの文法」の混在のしかたも現代っぽいなと。
林 自分としてはふざけていたいというのもありますね。感情移入して描くほうなので、あまりシリアスにならずどこかでふざけていたい。マンガだからできるドタバタ、ムチャクチャを楽しみたいんです。
――描きながら感情が入ったシーンは?
林 コココとエリエがいっしょに遊んでいる一連の場面ですね。読者的にはあまり印象に残らないかもしれませんが。
――ハッピー感がすごく伝わってきます。風景の描きこみもかなり細かいですよね。建物のデザインも凝っていますし。
林 建物は、フンデルトヴァッサーというドイツ人の建築家の作品を参考にしたりしましたが、魔界のデザインは悩みましたね。
――「魔界」といってもおどろおどろしい雰囲気ではないですね。
林 昔描いたひな形の読み切りのときは、地獄っぽいというか……「魔界でございます」みたいな感じだったんですけど(笑)。魔族といえども悪ではなく、普通の人が暮らしてる感じにしたかったので。魔界と人間界をデザインした時点で力尽きてしまったので、4話のけものの国の背景は、ほかの人にデザインしてもらったんです。
――人間界の「風の国」に比べるとアジアっぽい感じですね。
林 マンガ仲間でプロアシの植村さんという方につくってもらいました。ものすごくしっかりした設定画を描いてくれたのに、申しわけないことに作中で使いきれなくて。あまりにもったいないので、単行本の巻末に掲載させてもらいました。
各話にさまざまな要素を盛りこめる「1話完結」の楽しみ
――ところで、投稿する際に長編作で応募できる賞を探したそうですが、1話完結スタイルにしたのは?
林 1話完結ものなら、ちょっとシリアスな話もコミカルな話も盛りこめる。1話ごとにタッチを変えられるのがいいと思ったためです。
――1話でコココが魔界を飛び出し、2話で人間界の少女エリエと友情を築く。3話で、人間界でコココの世話をしてくれているユカリの恋愛ドラマが出てきたのは意外でした。
林 人間関係を大切にしているドラマなので、居候先のエピソードも描いておくべきだろうなと。最初にコココの雛形を描いたときにも若い男女に絡むエピソードがありました。
――恋愛エピソードとはいえ大人の世界だけの話ではない、コココが蚊帳の外になっているわけではない。ちゃんとコココの「仕事」とも絡んでますよね。4話のけものの国の話もそうですが。
林 4話の設定を考えたのは、単純に動物を描くのが好きだからですね。
――そして……最終5話の不穏な出だしには驚きました。
林 感情移入して描くほうなので、あまりシリアスな状況や暗いものは描きたくなかったんですが、1冊ものとなると平和なままで終わるのは物足りないかと。それで、コココがピンチに陥って、コココがこれまでに助けた人たちに助けられる構図を考えたんです。
――物語を通してのメッセージ性が伝わってくるように感じました。
林 コココは何がしたい主人公なのかと考えたときに、「友だち100人作りたい」というキーワードがありました。振りかえってみればこれが軸なので、これしかないかなと。「友だち100人」が活きる展開にしようと思ったんです。
取材・構成:粟生こずえ
■次回予告
次回のインタビューでは、夢中になったマンガや、漫画家を志すこととなったきっかけ、そしてマンガを描き続ける原動力についてうかがいいました!!
インタビュー第2弾は12月18日(月)公開予定です! お楽しみに!