人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、林良時先生!
人間界に行くことを夢見る魔族の女の子・コココちゃん。「魔界大使」となり人間界に向かった彼女は、「友だち100人」をつくることができるのか?
第8回『このマンガがすごい!』大賞最優秀賞を受賞し、単行本化となった『まかいたいしコココちゃん』。新人離れしたたしかな画力によって描かれる広がりのある世界観、そしてコココちゃんをはじめとするキャラクターが繰り広げる胸躍る展開など、「これぞ、王道ファンタジー」として、発売以来、マンガファンのあいだで話題となっている本作。今回、著者の林良時先生にインタビューをさせていただきました!
『まかいたいしコココちゃん』
林良時 宝島社 ¥900+税
(2016年12月9日発売)
30代を迎え、「これが最後の挑戦」と心に決めて……
――このたびは最優秀賞受賞、および単行本デビューおめでとうございます。
林 ありがとうございます。まだ、正直なところあまり実感が湧かないのですが。書店の店頭に並んだところを見たり、お客さんの反応が返ってきたら変わってくるんじゃないかと思います。
――この作品で、昨年度(第7回『このマンガがすごい!』大賞)も最終選考に残っていましたよね?
林 はい。せっかくそこまで残ったので、もう一度チャレンジしようと。前回投稿したものをブラッシュアップして再挑戦しました。1ページだったシーンを見開きにするなど、盛り上げるための演出を見直しました。
――どうしてもこの作品で、という思い入れがあったのでしょうか。
林 はい。22歳のときに雑誌デビューを果たしはしたものの、なかなかうまくいかず。読み切りは何本か掲載されましたが連載には至らず、単行本も出せないまま30代を迎えて。最後の挑戦として自分が本当におもしろいと思える作品を描きたいと思いました。読み切りではなく、単行本描きおろしみたいな新人賞を探していて、『このマンガがすごい!』大賞を見つけたんです。
――背水の陣の心境で臨んだ投稿だったんですね。
林 30歳を過ぎて、これからどうするんだと。アシスタントで食べていくこともできるだろうし、マンガをやめようとは思いませんでしたが、商業作家を目指すかどうかの区切りはつけたいと考えて。自分が心からおもしろいと思える作品を描いて通用しないなら諦める。それをやらなかったら終われないと思ったんです。
――『このマンガがすごい!』大賞では、応募時3分の1が完成原稿になっていればあとはネームでOKとなっています。受賞が決まって、それから単行本を仕上げるまでがたいへんだったのでは?
林 受賞のご連絡をいただいたときはうれしい反面、「これからたいへんだ!」というのが大きかったですね。ずっと「これ、本当に上がるのかな」というプレッシャーのなかにいたので、今は放心状態に近いです。自分では納得のいくものができたと思っているので、あとは読んだ人が「おもしろい」といってくれたら……。「おもしろい」っていってください!(笑)
ウケは気にせず、自分が描きたいものを描く
――本作はどのような着想から出発したんですか?
林 学生時代に描いた読み切りがもとになっています。「ジャンプSQ.」に投稿した作品で、WEBに掲載されました。魔界の女の子が人間界にやってきて交流するという大枠の設定は同じです。コココというキャラクターが気に入っていたので、そのひな形を膨らませて。
――キャラクターからつくったお話ということになるのでしょうか。
林 かなり前なのであまり覚えていないんですが、最初は魔女っ子にしようかと。でも、魔女っ子はありきたりだから悪魔っ子にしようかなとか……。
――作中、問題を解決するにあたっては、魔力は使ってないですよね。
林 結局、腕力では解決しえないものを障害として設定しているので。
――わかりあえない世界の人同士の話ということで、「魔界」という設定が必要になったわけですね。
林 ファンタジー世界を描きたい気持ちも大きかったと思います。絵的に、現代の風景を描きたいという気持ちがなくて。どうせ描くなら自分が描いてて楽しい世界にしたいじゃないですか。
――昨今ファンタジー作品はかなり多いですが、競争率が高そうだと思ったりしませんでしたか?
林 ウケとか競争率とかは考えなかったですね。ぼくはあまり個性のあるタイプじゃないので、頭で考えて描くとそれこそ薄くなっちゃうと思う。それでも、これまで築いてきたものがあり……自分なりのものは描けるだろうなという確信はありました。あと、自画自賛になっちゃいますけど、人を選ぶ絵柄ではないのがいいところかなと思っていて。意図したわけではなく、好きな絵を描いた結果、自然にできた絵柄ですが。
――ちなみに「コココ」という名前をつけた理由は?
林 最初は「ココ」でしたが、ありきたりだなと思って。ほかの登場人物のネーミングは和風と異世界風イメージのミックスという感じです。特定の国籍をイメージさせないようにと思うと難しいですね。