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中島三千恒『軍靴のバルツァー』インタビュー【後編】 男装ヒロインは最初から決まっていた!?【総力リコメンド】

2014/12/16


「この撤退戦がすごい!」アイデアが凝縮された戦闘シーン

――思い入れのあるエピソードをお教えください。

中島 単行本では5巻がうまく描けたな、と思っています。

――ホッペンシュテット村からの撤退戦ですね。

中島 戦争のシーンを描く時は、こういう地図みたいなものを叩き台として作るんです。

戦争の進行がこと細かに描き込まれた貴重な資料。中島先生はさながら軍師のよう。

戦争の進行がこと細かに描き込まれた貴重な資料。中島先生はさながら軍師のよう。


――コレすごいですね! 地図があって、その脇に番号が振ってあって、物語の経緯が順番にメモ書きされている。地図兼プロット、といったところでしょうか。

中島 戦争の時は、まず地図があるとイメージしやすいですからね。①②③④……と段階を踏んでいって、全7話くらいでやれるかな、という物語全体の見取り図になっています。これがあると、打ちあわせも便利なんですよ。この撤退戦は、最初に〝斉射砲〟を発見して、それをどうにか活用して勝利する……みたいな大枠があって、そこから話を詰めていきました。「追われるスリリングさ」と「武器や道具を工夫する」といった要素ですね。

――鉄条網を使ったDIY的な発想が見事でした。

絶体絶命のピンチを覆したのがこの鉄条網による作戦。これには敵軍だけでなく読者も意表をつかれた。

絶体絶命のピンチを覆したのがこの鉄条網による作戦。これには敵軍だけでなく読者も意表をつかれた。


中島 1巻のライフル銃対マスケット銃の戦いもいえることですが、ストーリー上のギミックとしての戦術がハマった瞬間は爽快です。

――やっぱり戦記ものといえば「撤退戦が華」みたいなところがあるじゃないですか。読んでいて楽しかったです。

中島 ありがとうございます、ここは描いていてもすごく楽しかったんですよ。あと撤退戦は、つねに主人公サイドにカメラを合わせられるのがいいんですよね。

――というと?

中島 大規模な戦いだと戦局を説明する必要があるために、どうしても主人公だけに焦点をあわせるということが難しくなります。けど、撤退戦は少人数をずっとクローズアップできるので、マンガ映えしますよね。

――なるほど、たしかに。

中島 この撤退戦では、「騎兵の怖さ」から入って、その騎兵がボロ負けするまでが描けました。こういった変化をうまく描けると、うれしいです。

――駆け引き中心の政治劇よりは戦闘シーン、いわゆるドンパチのほうがお好きですか?

中島 ドンパチの準備が好きです。

――準備ですか? 具体的にはどのあたりでしょう?

中島 4巻ですね。撤退戦が始まる直前。鉄道での移動の最中に手こずる話とか、後方の村でダラダラしているところとか。その村に若いけどエライ奴(バルツァー)がきて、もとからいる人たちと不仲になる感じとか、大好きです。ドンパチは始まっちゃうと、あとはもうドンドン進めていくだけなんですけど、このあたりの準備段階の話だと、キャラを工夫したり、交流したり、それでいて戦争の香りは残しつつ……と、いいとこ取りできるんですよね。

「平和なんてものは次の戦争のための準備期間」というセリフそのまま、つかの間の平穏な日々の間にも戦争の影は近づいている。

「平和なんてものは次の戦争のための準備期間」というセリフそのまま、つかの間の平穏な日々の間にも戦争の影は近づいている。


――この撤退戦で焦土作戦を取らなかった点で、個人的にはバルツァー少佐への好感度がグッと上がりました。

中島 それなんですよ。戦記ものだと焦土作戦は有効な手段としてよく出てくるんですけど、この時代はそんなに効果的ではなかったんじゃないか、と思いまして。

――労力や手間を考えると?

中島 それもあります。それに、あとあとその土地を治める時に住民感情が最悪になっているワケじゃないですか。実際問題、ヨーロッパの国境沿いの町が戦争のたびに焼き払われているかというと、そんなことはない。その町の住民は、2カ国語をしゃべれるようになっています。

――たしかにそういう地方は多いですね。

中島 旗色次第ではどちらについてもいいよ、的なスタンスだったりします。地続きで国境を接している感覚なので、ちょっと私たち日本人とは違うのかもしれません。このあたりは設定協力の白土さんともよく話し合いました。

日和見主義は戦争が日常となっている村人たちの生き残る知恵。村人たちの明るさにかえって悲壮感を覚える。

日和見主義は戦争が日常となっている村人たちの生き残る知恵。村人たちの明るさにかえって悲壮感を覚える。


――アイデアとして焦土作戦はあったけど、やらないことにしたわけですね。

中島 戦後賠償の問題もありますしね。戦争はたしかに残酷ですけど、「残酷描写=リアリティがある」というわけではないと思うんですよ。そういった部分をアピールしたかった気持ちはあります。

――第一次大戦より前ですし、まだ大量破壊兵器が存在しない時代ですしね。

中島 そうなんです。殲滅で相手の国力をどうこうする……というよりは、軍隊の戦力同士がぶつかって勝敗を決めるような時代。普墺戦争でも、首都は包囲するけど侵攻せずに終了しています。よく「戦争は政治の一手段だ」といわれますけど、それがキチンと機能していた時代だと思います。戦争が合理的で、理性的で、まだロマンが残っていたんじゃないかな。

――ルールというか不文律がある印象がありますよね。

中島 落とし所をわきまえている感じがあります。戦争には「終わりがあって次がある」という認識ですね。

単行本情報

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