ヒロイン・ヘルムートの誕生秘話
――「月刊コミック@バンチ」のイベントで、連載作品のヒロイングラビアコンテストをやったところ、『軍靴のバルツァー』のヘルムートが1位に輝きました。
中島 そうなんですよぉ。
――あの子は2巻の第9話で「じつは女」と発覚しますが、もともと男装キャラとしてお考えだったんですか?
担当 私、反対しましたよね?(笑)
中島 そうなんです。「ヘルムートがじつは女」設定は、担当さんから反対されたんです(笑)。
――それはまたどうして?
担当 ずっとその設定なしで9話まできてましたから、いろいろと設定や物語を見直す必要があるのではないかと思ったんです。そこで穴埋めが生じると、ちょっと作業的にヘビーじゃないかな、と。
中島 そういうミーハーなネタはいらない、と言われました(笑)。
――そもそも、どういったところから「ヘルムート=女」設定が出てきたんですか?
中島 第1話のヘルムート初登場時(騎兵科の馬術試験)に、バルツァーが騎兵を見て呆れているシーンがあるんですけど、「あの子、じつは女なんですよ」「え、女かよ」みたいなやり取りを入れるかどうか寸前まで迷っていたくらい、最初期から考えていた設定なんです。
――じゃあ本当に最初の最初ですね。先ほどおっしゃっていた例だと、「固めずにフワッとさせておいた」設定部分ですか?
中島 そうです。でも「じつは女」なら、絶対にそのエピソードを掘り下げる必要が出てきますよね。先ほど言ったように、人気がなければ全2巻で終わらせる予定でしたから、そこを掘り下げている余裕はないぞ、と。
――それだと詰めこみすぎになりそうですね。
中島 だから特に触れずにいたんです。でも私の脳内では「女の子なんだけどなぁ」の思いがあったんですよね。だから第2話でバルツァーとヘルムートが抗議集団を追跡して、市街地で一緒にご飯を食べますが、あれは主人公とヒロインがマンツーマンで接する最初のシーンとして、当初は構想していたんです。結果的に連載を続けられることになったので、「ヘルムート=女」の設定がよみがえってきただけです。
――では完全に裏設定みたいな扱いだったわけですか。担当さんはご存知だったんですか?
担当 2巻収録エピソードの打ち合わせの時に初めて聞かされて、「えーっ!」ですよ。普通に考えたら、マンガに女の子は必要なんでしょうけど(笑)。
――まあ、実際にナポレオン戦争の頃、ロシアに男装の女性騎兵がいましたからね。
中島 そうです、いのまたむつみ先生が表紙を描かれている『女騎兵の手記』【注2】という本があるんです。すごく読みやすい本で、「いいじゃん、女騎兵かわいいじゃん!」って思っていました。
――正直、“テコ入れ”みたいにうがった見方をしていたんですけど、ヘルムートは「人気がないから女にした」のではなく、「人気が出た(連載が続く)から女になれた」キャラクターなんですね。
- 注2 ナジェージダ・アンドレエヴナ・ドゥーロワ著。19世紀初頭にロシア軍で騎兵将校を務めた著者による手記。退役後に手記を刊行、じつは女性であることを発表した。いのまたむつみが表紙を描いている日本語訳版は、新書館より1990年に刊行された。