人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、村瀬克俊先生!
脱出不可能となった学校を舞台に毎夜繰り広げられる絶望の鬼ごっこ。ゲームは、バラバラになった同級生のカラダをすべて探し出すまで終わらない! 最恐のサバイバルホラーマンガとして話題沸騰の『カラダ探し』。
インタビュー後編では、毎週、読者を恐怖に陥れるめちゃくちゃ怖い世界を描き出す、作画担当の村瀬克俊先生にお話を伺いました。
原作者ウェルザード先生のインタビューが掲載している前編はコチラ!
スポーツマンガ畑の村瀬先生がホラーに初挑戦したワケ
――村瀬先生はこれまで「週刊少年ジャンプ」(集英社)や「週刊ヤングジャンプ」でスポーツものを連載している印象が強かったので、新作がホラーというのは意外でした。
村瀬 昨年(2014年)の6月に担当さんとブラジルに行った時に……。
――え、ブラジル?
村瀬 そうです、サッカーW杯のマンガ・ルポを現地から配信する[注1]、という企画でブラジルに行ったんですよ。で、飛行機のなかで「今度「ジャンプ+」[注2]というのが始まるんですけど、そこでぜひ」とお話をいただいたんですね。その時はまだなにを題材に描くのかは決まってませんでしたけど。
――原作つきでマンガを描くのはこれが初めてですが、戸惑いとかはありませんでした?
村瀬 もともと自分の幅を広げたいというか、今までとは違うジャンルに挑戦して「自分はこういうのも描けるんだぜ」っていうのを見てほしい気持ちがあったんですよ。そういう挑戦的な部分があったので、特に戸惑いとかはなかったです。
――そこでなぜホラーを選んだのでしょうか?
村瀬 以前からホラーというジャンルは気になっていたんです。だけど俺、ホラー映画を見てもあんまり怖がらないんですよ。
――そこはウェルザード先生とは真逆なんですね。
村瀬 だから気になっているのに、自分ではどういうのを描けばいいのか思いつかなかったんです。そうしたら、ちょうどいいタイミングで『カラダ探し』があった。パッと読んだ時に「これはマンガに向いている!」って思ったんです、「これはイケる!」と。
担当 それで7月中にネームをもらって、8月にはもう連載に向けて執筆に入ってもらいました。9月22日が「ジャンプ+」の創刊で、『カラダ探し』は同じ週の金曜日(26日)に第1話が配信されました。
――すごく急展開というか、企画段階から連載スタートまでの準備期間がほとんどないですね。
担当 そうですね。『カラダ探し』のようなサバイバルホラーと、これまでの村瀬先生の作風が合うのかわからない部分はありましたけど、でも実際にネームを見たら、ジャンプ編集部でも「想像以上に相性がいい」と好評で、それで連載が決まりました。
――村瀬先生は、どういったところで「これはイケる!」と思ったんですか?
村瀬 原作小説を読んだ時に、絵が浮かびやすかったんです。
――ホラー初挑戦ということには、不安はありませんでした?
村瀬 ジャンル違いとはいえ、リアルな舞台ですからね。学校が舞台で、登場人物は普通の高校生なので、そこは大丈夫でした。いきなりドラゴンが出てきたり、怪獣が出てきたりはしないので、抵抗はありませんでしたよ。サバイバルホラーというジャンル自体は今、流行っているので、「ジャンプ+」で目立てればいいな、と(笑)
――たしかにサバイバルホラーは今、流行ですね。
村瀬 でも、がっちりとリアル路線でやっているのは少ないと思います。なので、とにかくリアルでいこう、と。かわいい路線に寄らないように、そこは注意してました。あとはエロですね。
――エロ!
村瀬 エロとホラーって、だいたいセットじゃないですか?
――ホラー映画だと定番ですね。
村瀬 でも、『リング』とか『らせん』のような、本当に怖い日本のホラー映画って、エロ要素が入ってないんですよ。ですからエロに関しては、連載前に担当さんとウェルザードさんとも連絡を取って、「なし」でいくことにしました。まあ、俺の絵でエロを求める人は、そもそもいないんじゃないかと思いますけどね。
――いやぁ、キャラクターみんなかわいいじゃないですか。
村瀬 本当っすか? 俺、女の子をうまく描けないのが、ずっとコンプレックスだったんですよ。
――そっか、少年マンガのスポーツものって、あんまりヒロインが出てこないですしね。
村瀬 そうなんですよ(笑)。普通にネームを描くとヒロインの出番がないので、いつも無理やり出番を作ってたくらいですから。でも、それだとキャラがいきないんですね。それで「俺は女キャラが描けない」と思ってたんです。
担当 今回は主人公が女子高生ですから描かざるをえないですよね。
村瀬 そう。「苦手」とか言ってられない。コンプレックスを押し込んで描いているので「かわいい」とか言われると、うれしいです。
原作小説からイメージを膨らませキャラクターを作る
――ウェルザード先生は「キャラクターの外見については、小説ではほとんど書きません」と言ってました。ではマンガ用にキャラクターを作る際には、どういった点からヒントを得ましたか?
村瀬 原作小説から大きく変更したのは主人公の明日香です。原作では、明日香はすごく“普通の子”なんです。いわゆる“デキた子”ではなく、本当に“普通”。彼女がどう思うか、どういった感情を抱くか。小説では、それを描写することが、すごくリアルだったと思います。だけど、それをそのままマンガにすると、イヤな子に見えるかもしれない。これは少年マンガにするわけですから、そういった部分はあえて削りました。
――等身大の女子高生としての、「生の部分」をカットしたんですね。
村瀬 明日香が「怖い、怖い」と言いながらも、一生懸命に最初の1歩を踏み出し、彼女が動くことによって周囲との関係もよくなっていく……と、「少年マンガとして」わりやすいように変えました。
――それは最初から?
村瀬 そうです。そこは最初から意図してましたので、担当さんにも「明日香は“いい子”にしちゃいますよ」と伝えていたんです。毎週19ページのなかでストレス展開が続いた時に、登場人物みんながイヤなやつだと、読者的にもツライと思うので、明日香というよりどころを作っておきたかったんですね。まあ、主人公を中心に話がまわるように……と。
――明日香は「カラダ探し」をやる6人のなかで、潤滑油のような存在になっていますね。
村瀬 言葉で説明するよりは、行動で見せるタイプだと思います。「明日香ががんばっているから、私たちも」というほうに、ほかの登場人物たちも動いていきますから。
――外見的には?
村瀬 “いい子”にするために、まじめっぽい感じにしたくて、少し地味めにしました。まわりの子たちには「スタイルがいい」とか「美人」といった記述があったので、明日香は目を一重にするとか、あんまり目立たない感じを意識しましたね。留美子は美人とか、理恵は胸が大きいとか、なんとなく手がかりがあるんですよ、小説のなかに。
――原作のなかの少ない情報を手がかりにキャラクターを作っていった?
村瀬 原作からの連想ゲームじゃないですけど、自分の読んだ印象を含めて、そこに「最近のタレントだと誰だろう?」みたいなのを入れてます。たとえばAKB48の小嶋陽菜さんとか足立梨花さんなんかは、今、「スタイルがいいタレント」としてよく名前があがるじゃないですか。顔は似せていませんが、そういう人たちのスタイルとか、髪型とかは参考にしました。
――男子陣営はどうですか?
村瀬 高広はかっこいいキャラですけど、カッチリと決めるおしゃれなタイプではなく、少しラフでバサッとした感じ。ガッシリとして背が大きいほうがケンカは強そうだな、と。翔太は小っちゃくてメガネで、マジメ。健司は、徐々におかしくなっていくんですけど、顔に変化させやすいように。
――各キャラとも、きっちり設定を決めて連載を開始したんですか?
村瀬 そういうわけでもないんですよ。というのも、原作では最初は怖さと雰囲気を重視してて、徐々に各人物の性格が見えてくるんですね。高広が明日香を好きだったり、明日香はちょっと鈍感だったり、留美子はクールそうに見えてけっこうヌケてたり……と、少しずつ人間味が見えてくる。だから、あんまり最初にガッチリとキャラクターを作っちゃうと、話が進むにつれてキャラがブレちゃうかもしれない。
――ちなみに、描いていて楽しいキャラは誰ですか?
村瀬 遥ですね。遥は「人形っぽい」というのがあったので、あんまり生き生きとした今風の髪型だと怖くないな、と思ったんです。日本人形みたいなほうが、冷たい感じを受けるんじゃないかと思って。表情は、普段は人形みたいにしておいて、「カラダ探し」をお願いにくる時には思いっきり崩してます。なんかちょっとリミッターが外れちゃった感じはありますけど(笑)
- 注1 サッカーW杯のマンガ・ルポを現地から配信「週刊少年ジャンプ」誌上で連載していた、日本代表選手を紹介するコーナー「蹴ジャン!」の「ジャンプLIVE」出張版。W杯開催期間中、村瀬先生がルポマンガ形式で、現地の様子をレポートした。なお、「ジャンプLIVE」は「週刊少年ジャンプ」のデジタル増刊号としてサービスを配信していたが、「ジャンプ+」の創刊にともなってサービス停止している。
- 注2 「ジャンプ+」 2014年9月22日から集英社が配信スタートさせた、ウェブコミック配信サイトのこと。スマートフォン・タブレット端末向けのアプリでもある。無料マンガ作品、「週刊少年ジャンプ」連載作品の電子版、復刻作品などを読むことができる。オリジナル連載作品に『黒子のバスケ番外編』『とんかつDJアゲ太郎』『ヘタリア World Stars』『猫田びより』などがある。