強弱と落差の演出 マンガで見せる「怖さ」
――『カラダ探し』、めちゃくちゃ怖いじゃないですか。
村瀬 ありがとうございます(笑)
――怖さを演出するうえでは、どういった点に気をつけていますか?
村瀬 マンガの基本でいえば、ページをめくった時に怖くなるように心がけてます。あるいは、めくる前にちょっとだけ怖いシーンを見せておいて、めくるのが怖い……、とかですね。それの繰り返しだったりします。
――なるほど、ページをめくる行為自体に怖さを持たせる。
村瀬 1話のなかにいくつか恐怖シーンを用意するんですが、一本調子にならないように、強弱をつけますね。怖さのヤマ場を作っておいて、先に楽しいシーンを見せておいて落差を生むとか。そういう演出は意識してます。
――グロいシーン、筆がノっている印象を受けるんですが。
村瀬 けっこう楽しんで描いてるんですよね。もともとアクションが好きだから、人と人が絡んでいるシーンを描くのが好きなんです。だから「赤い人」がしがみついてきたり、走っているところなんかは、描いていてすごい楽しいですよ。
担当 1回、「ジャンプ」本誌に出張版として、『カラダ探し』の読み切り[注3]を掲載したんです。その時は、首が斬られているシーンで残虐になりすぎないように、まろやかに修正をお願いしました。
――「ジャンプ」と「ジャンプ+」では、そのへんのコードの違いはあるんですね?
担当 そうですね。少し違いはあると思います。
村瀬 「赤い人」に関しては、1巻の最初に出てきたところが、俺のなかではいちばん怖いシーンです。動いてるシーンを描くのは楽しいんですけど、「怖さ」という点では、真っ暗ななかに血だらけの少女が立っているという、その実体感ですね。暗闇のなかを歩いている時に、「なんかいそうだなぁ」って思う感覚と、本当に“なにか”がそこにいる恐怖。地に足が着いたような感覚というか、それを実感できるように描きたい。
――幽霊なのに「いる」という実体感を表現しようとしている点がおもしろいですね。
村瀬 ここだけの話、「赤い人」の表情をどう描けばいいか、ちょっと迷った時期があるんです。毎回同じ顔だと飽きちゃうだろうし、いろいろなパターンを見せて変化をつけなきゃなぁ、と。
――そこはどう克服を?
村瀬 だんだんと遥の頼み方シーンが派手になっていって、健司も徐々におかしくなっていき、そっちに役割を分担できるようになったんですね。なので「赤い人」は、最初の頃に近いような、あまり崩しすぎない表情にしていってます。暗闇のなかでニタ~ってしているほうが怖いと思うので。変化のついた顔は遙に任せようと思ってます。
――遙はお気に入りのシーンあります?
村瀬 これですね。
――うわー、これ超怖かったやつだ。
村瀬 あと、2巻のカバーをめくって表紙の絵を見てもらいたいんですが……。
――うおっ。
村瀬先生のマンガ制作の現場
夜のシーンが多いのでデジタルは必須!!
――「ジャンプ+」はweb配信ですが、作業のペースはどんな感じですか?
村瀬 基本的には毎週更新なので、週刊連載と変わりません。
――村瀬先生のペースは?
村瀬 俺は速いほうだと思いますよ。
担当 作家として村瀬先生は「速い」イメージがあります。ネームはどれくらい?
村瀬 ネームは丸1日くらいです。
担当 ペン入れはどれくらいですか?
村瀬 枠線引いて、フキダシ入れて、下書きして……、キャラクター全部にペン入れをするまでが2日半。
担当 19ページで?
村瀬 そうです。丸1日キャラだけペン入れすれば、9~11ページくらいですね。
担当 それは速いですね。他の週刊連載では、ネーム3日、作画4日というパターンが多いと思います。
――描く速さって、「速く描く練習」をしないと、速くならないもんですか?
村瀬 ならないと思います。ずーっときれいな線を引いていると、その技術はうまくなります。だけど、パッと引いて正解の線が引けるかどうか。かたちをザザザっと取って、すごくラフな下書きの状態からペン入れができるか。
――影響を受けた作家とかは?
村瀬 浦沢直樹さんですね。タッチは似せていませんが、浦沢さんはデッサン力があってかたちを取るのがうまくて、速いんですよ。それをまねしたおかげで、速く描くクセがつきました。
――以前『浦沢直樹の漫勉』[注4]を見た時に、浦沢先生はすごく速かったです。
村瀬 やはり週刊で描くには、速さは絶対に武器になります。速くてうまければ、それだけ休みも取れますしね。やっぱり疲れると、ネームも絵もへたってきますから。俺は週に1日か1日半は休むようにしています。休まないと描けなくなるタイプなんです。短距離型なんですよ。どうやって休んで、どうやって自分の力を発揮するか。コンディション作りも仕事の一環だと思っています。
――しっかり休まないとキツイですよね。
村瀬 休んで元気になれば、また力を入れられますしね。それから、いつも失敗する箇所を覚えておいて、正解を導いた時のかたちを引っ張ってくるようにすると、だんだん絵が見えてきて、少しずつ速くなるんですよ。あと俺、そんなに細かいところは描き込まないので。たとえば女子高生を描くのが好きな人は、スカートのヒラヒラとかをすごく丁寧に描き込むと思うんですよ。でも、そこに俺のフェチはないので(笑)。だーっと輪郭線だけ描いて、ハイライトを取って、あとはベタで潰しちゃってるんですね。でも、誰もそこに違和感は抱いていないと思う。
――こだわる人はシワ1本1本まで描き込みますもんね。
村瀬 他人の作品を読んでいても、俺はそこに目がいかないんですよ。自分はキャラクターの動きだったり、アングルとかに凝るほうですね。
――全体を流れで見せていくほうが好き?
村瀬 そうですね、マンガを描くのが好きなので。でも、1枚絵のイラストがじつは苦手だったりします。
――見開きで大きい絵を描くのは大丈夫?
村瀬 それは大丈夫です。マンガとして流れを作って大ゴマへとつなげていく場合は「こういうシーンにしてやるぜ!」って、逆に気合いが入ります。
――じゃあ新刊用にポスターとかPOPのイラストとなると?
村瀬 「どうしよう、1枚をじっくり見られちゃうな」ってドキドキします(笑)
――今、原稿はデジタルですか?
村瀬 キャラクターと背景まではアナログで描いて、仕上げだけデジタルです。アナログでガリガリ描いているのが楽しかったりするんですよ。
――なるほど。
村瀬 デジタルで描くと、けっこう細かいところまできれいに描けてしまうので、描き直しすぎて止まらなくなるんですよ。だからデジタルでやるにしても、どこまででヨシとするか、その線引きは必要かなと思います。
――デジタルの利点って、どんなところでしょう?
村瀬 トーンがバシバシ貼れるのはいいですよ。スクリーントーンはやっぱり高いし、貼るのに時間がかかりますから。経費とか人件費を考えずにバシバシ使えるのは利点ですね。なんせ『カラダ探し』は、夜のシーンが多いので、その点ではすごく助かってます。「これアナログだったら毎週何万かかってんだ?」とか思いますもん(笑)。
――「ジャンプ」本誌と、web配信の「ジャンプ+」では、違いを意識していますか?
村瀬 画面の色づかいですね。最初は「ジャンプ」基準で描いていたんですけど、「ジャンプ+」でアップされたデジタルの原稿を見たら、バックライトのせいなのか、すっごく明るいんですよ。最初の「赤い人」登場シーンは真っ暗になるぐらいに描いたのに、けっこう顔が見えちゃってて、そこで「あれ、明るい!?」って気づきました。
――ああ、ディスプレイで見ると明るいですね。
村瀬 マンガで普通に使われるトーンって、トーン番号で言うと63番とか64番なんです。数字が大きくなると色合いが濃くなるんですけど、デジタルで見ると、1~2番ほど色合いが下がる感じ。だから65番とか66番とかは普通に使っているし、「ジャンプ」本誌だったら真っ黒になっちゃうような番号も平気で使っています。どんどん濃くしていって、濃さにチャレンジしていった感じです。
――「ジャンプ」本誌で読み切りをやった時には、そこはまた変更を?
村瀬 そうです、また明るくして。でも、本誌だとグロいシーンは見せちゃいけないので、そこはあえて真っ黒にしてみたり。
――「ジャンプ」の紙(印刷せんか紙)だと、すぐ黒くなっちゃいますよね。
村瀬 作品もホラーなので、いくらか暗い印象でもいいのかな、って「ジャンプ+」のほうでも最近は割り切ってます。
――コミックスにする時には明るさの調整は?
村瀬 最初はしようと思ってました。でも、刷り上がったものを見たら大丈夫だったので、連載時のままです。
――コミックスの小口の裁断面、黒いですねぇ。
村瀬 黒いですねぇ(笑)
おもしろさが加速する2巻と今後の見どころ
――『カラダ探し』の「ジャンプ+」での反響はいかがですか?
担当 「ジャンプ」的には特異というか、少し変わった作品だと思っていたんですけど、想像以上に評判がよかったです。思った以上に反響がありました。なかでも単行本2巻の最後の2話(第十六話、第十七話)は両方とも人気が高かったです。
村瀬 ここは原作を読んだ時に、自分もおもしろいと感じていた箇所なので、描くのが楽しみだったんです。ネームを描いた時に担当さんから「今まででいちばんいい」ってテンションの高い返事をもらえましたし(笑)。ワクワクしながら描けたし、そういう回が人気あったと聞いたので、うれしかったですね。
――では2巻と今後の見どころをお聞かせください。
村瀬 1巻は「こういうお話ですよ」と顔見せ的な部分があったので、この2巻からキャラクターたちが動き始めたり、謎についてアクションを起こしたり、ストーリーが加速します。「カラダ探し」とはなんなのか、なぜ起きているのか。放送室のなかには誰がいるのか、すでに作中に出てきた人物なのか? いろいろな疑問が出てくると思いますが、その謎解きも楽しんでいただければと思います。
――ウェルザード先生は八代先生がキーパーソンだと言ってました。
村瀬 マンガではかなりオーバーな演出をして、だいぶ怖い感じになっちゃっいましたが(笑)、八代先生にもぜひ注目してください!
特別掲載『カラダ探し』!
現在、「このマンガがすごい!WEB」で3話まで無料公開中!!
取材・構成:加山竜司
撮影:辺見真也
- 注3 読み切り「週刊少年ジャンプ」2015年11号に掲載。「カラダ探し」一日目(1巻第1話)を、高広目線で描くスピンオフ的作品。一日目が題材なので、全員が「赤い人」に殺されて終わる衝撃の展開。掲載順番が『斉木楠雄のΨ難』(麻生周一)の直後だったので、その落差によって衝撃度が増した。
- 注4 『浦沢直樹の漫勉』2014年11月9日にNHK Eテレで放映された番組。浦沢直樹をプレゼンターとして、浦沢直樹、かわぐちかいじ、山下和美らの下絵→ペン入れの作業現場を撮影した。