『珈琲店タレーランの事件簿』の魅力について、コミカライズを担当した漫画家・峠比呂先生を直撃したインタビューも今回でラスト。 マンガを描くため、マンガはもちろん、映画や小説などたくさんの作品に触れてきた峠先生が、「初めて味わった!」とまで仰った『タレーラン』最大の魅力とは!?
コミカライズは難しい!? 2つのアプローチ
——峠先生は『タレーラン』以外にも、これまでに『まおゆう』や『ミニスカ宇宙海賊(パイレーツ)』など、多くの作品のコミカライズを手がけられていますね。
峠 けっこうありますね。それ以外にも『ヴァルキリーコンプレックス』から始まり、『Candy Boy』とか。
——原作つきの作品とオリジナルの作品では、やはり作り方に差があるのかなと思うのですが。
峠 正直、あまりないかな?
——そうなんですか。意外な返答です。
峠 あと原作があったほうが、そこを考える手間が省けるぶん楽だと思われがちなんですけ、じつはオリジナルのほうが楽なんです。勝手にできるじゃないですか(笑)。
——人の作品は難しいと。
峠 コミカライズのたいへんなところって、原作のどこを描いて、どこを削るかの判断ですよね。だいたい二通りのやり方があって、ひとつめは「原作どおりに描く」。それはそれで正しくて、たぶんそのほうが読者に優しいんです。
——たしかに最近は、少しでも原作と違う点があると「改悪だ!」という声があがることもありますものね。
峠 ただデメリットとして、自分がこうじゃないかなとか思い入れができても、出しきれないときがあるんです。それに、原作者の方も、せっかく自分の作品が絵になるのに、原作そのまんまのものがきても驚かないかなって。
——だいたいどのコミカライズ作品も、原作者のチェックがあるので、原作者は最初の読者のひとりとも言えますよね。
峠 だから、もうひとつのパターンは「自分の解釈で描く」っていうことですね。これは諸刃の剣で、読者さんと自分のなかで原作の受け方が違ったときに、これじゃないって言われるんですね。
——たしかに読者のなかにあるイメージも人それぞれですもんね。
峠 ただ原作どおりに描いていったときに、自分のなかで未消化な部分が残っているとキャラクターが動いてくれないときがあるんです。なので、どちらのパターンで描くにしても、まず自分のなかで理解を深める必要性はありますよね。
——なるほど。コミカライズを行ううえで、一番難しいのは。
峠 小説のコミカライズだと、尺の問題があるんです。
連載を続けていくなかで、アニメのコミカライズってページがあまることもあるんです。アニメって絵は密なんだけど、あんまり情報を詰め込めないんです。30分番組ですから。
でも、小説はマンガで描ける情報量なんかに全然収まらない。今回の連載も毎回38ページでやってましたけど、それでも全然足らないんです。けっこう工夫があったんですよ(笑)。
——すると理想的には。
峠 きちんと原作と同じ展開を見せるというのであれば、原作1章分につき、コミックでは2、3話は描きたいですね。だから100ページくらいかなぁ(笑)。そこがジレンマですよね。魅力的なシーンだから、ここは描きたい!っていうところは、たくさんあったんですけれど、それをあえて削っていくっていう。限られたページ数のなかで、どうつじつまを合わせていくかも大事なんだけど、キャラクターの魅力をどうやって出すんだ?って。それはきっと、どんな作品のコミカライズでもぶち当たる問題と思う。
——うーん、ジレンマですね。
峠 「原作どおりに描く」っていうのは、長期連載が約束されてないといけないんですね。いつまでも続けていい、終わりまで存分にやってくださいって時だけ、そのままやっちゃいますね(笑)。