人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、iko先生!
ドSな副店長に、ジャニーズ系学生バイトの柳川、頼れるお兄さんキャラの朝倉……スーツ姿のイケメンがこれでもかと登場するアパレルコメディ『テラモリ』の著者・iko先生にインタビューを敢行!
今回は、コミュ障気味の高宮と副店長・平尾の恋の行方や、iko先生がスーツに寄せる想いなどをおうかがいしていきます。それではさっそく、本編スタート!
インタビュー第1弾はコチラ!iko『テラモリ』インタビュー 祝☆”スーツ着こなし男子”マンガ第1位! 『テラモリ』で日本男児を素敵なスーツ男子に教育!?【総力リコメンド】
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ネームの可否は
“きゅんきゅん判定”で!?
――まずは、主人公・高宮と副店長の平尾の恋愛模様についてもおうかがいしていきたいと思います。1・2巻では距離があった2人の関係ですが、3巻で急接近しますよね。
iko ほかの少女マンガを読んでいると、恋愛に発展するまでの展開が早くて、女子の多くは1巻から王子様的要素を求めているのかなと思うんですが、私はなかなかそれはできないんですよね。
本来だったら1巻で平尾が高宮に壁ドンしたり、3巻で高宮が倒れて平尾がお姫様抱っこした時に、キスしてもいいはずなんですけど、これがしていない、できない。
――3巻の巻末で、「もしも『テラモリ』が少女マンガ展開だったら」的なおまけマンガを描いていらっしゃいましたよね。
iko たぶん、自分が現場で働いていたので、甘い夢がみられないんだと思います。「イケメンがお姫様抱っこしてくれるなんてあるわけないじゃん!」って。ただ、3巻ではそろそろいいだろうと思って、お姫様抱っこを描きました。
――いきなり恋愛モードになるのではなく、2人の仕事への取り組み方がじっくり描かれたあとに、あのシーンが出てきたので「おぉっ」と思いました。
担当 そこをゆっくり描いたからこそ、男性の読者様にも読んでいただけているのだと思います。
――なるほど。少女マンガを読んでいるのを人に知られるのが照れくさいという男性読者でも言いわけができますもんね(笑)。巻数を重ねるに連れて恋愛要素が深まっていくなか、「ここまでは描くけれど、これ以上は描かない」など決めていらっしゃることはありますか?
担当 そういうのはなくて、1話1話打ち合わせをしていくなかで、「ここはサービスしすぎじゃない?」「ここはもう少しじらしましょう」みたいな細かい話をして決めていく感じです。
iko ネームには担当さんの“きゅんきゅん判定”というのがあって、ネームを見せた時に担当さんが「今回はきゅんきゅんぐらいかな」っていうと、それはダメなんですよ。「はぁ~~♡」ってなったら合格で(笑)。
担当 「でゅふ」だとダメですが、「でゅふふふ♡」と気持ち悪い声で笑った時は、合格です(笑)。
――『欽ちゃんの仮装大賞』でいうところの赤いラインを越えた!みたいな(笑)。『テラモリ』は読んでいてやきもきするようなキャラ同士の心のすれ違いを長引かせないのも特徴な気がします。そのあたりはいかがですか?
iko 基本はエンターテインメントに徹しようと思っているので、読者さんの心をエグりすぎないよう気をつけています。展開がハマったなという時は、やっぱり読者コメントの数も増えるんですよね。もちろん、そこに左右されすぎないようにはしていますが、反響が多いとやる気がでます。
――お話をおうかがいしていると、読者の声がダイレクトに力になっているんだなとしみじみ感じます。
iko 発信する側だけでなく、受け手がいて初めて作品って成立するじゃないですか。受け手は描き手の事情とか考えていることなんて関係なく、自分の受け止め方がそのマンガのすべてになるわけで。ですから、読者が作品を読んでどういうふうに感じたのかはとても気になりますし、お手紙いただいて「仕事がんばります」とか書いてあると、本当にうれしいですね。
WEBで自作マンガを公開していた時、プロデビューしたいという下心はあったんですけど、その一方で「ムリだろうな」と思ってモヤモヤしていた時期があって……その頃を思い出して余計に心にしみました。
――実際、メディア化したらハマりそうな作品ですよね。『テラモリ』は。
iko そうなったら2人で踊っちゃいますよね。
担当 いくらでも踊ります(笑)。
スーツは男性をイケメン化する魔法の鎧!?
――『テラモリ』は人間が暮らしていくなかで大切な要素である衣食住の「衣」を扱った作品じゃないですか。「食」や「住」について描かれたマンガ作品は多いですが、それに比べると「衣」の分野は塊にすると小さい気がします。「それはなぜだろう?」と感じたことはありますか?
iko 景気が悪くなったら何を削るかといったら、旦那のスーツみたいなことはよく耳にしますよね。
担当 「食」は食欲だし、「住」は睡眠欲や性欲を含んでいるじゃないですか。すなわちこの2つは三大欲求に含まれますが、「衣」はそこに含まれないですよね。グルメマンガだと「おいしそう!」というだれにも共通する感動がありますが、服の場合は見る人によって感じ方が違ってくるので、欲求的には低い位置にあるのかなというのがあります。だったら、そっちの題材を扱ったほうがみなさんの欲求にささるのかなということで、「食」や「住」の作品の比重が高くなるのではないでしょうか。
――たしかにそうなんですよね。でも、服って人からこう見られたいという欲求や快適に過ごしたいという欲求なんかの複合的な欲求を満たしてくれるわけじゃないですか。なかでもスーツは相手に敬意を払うためとか祝うために着る場合もあるわけで、今後もっと掘られていってもいいジャンルなのかなと勝手に思っているんです。
iko みなさん、スーツに関しては何が正解かを求めてはいるんだけど、雑誌を買うまでではないという雰囲気がありますよね。求められているのにあまり必要ない知識だと思われているのかもしれません。かたやファッション好きの人はトレンドを追い続け、その差が二極化しているようにも思います。ファッションのマンガを描いておいてなんですが、私自身もあまりファッションが好きではないんです。
――ええっ!? とはいえ『テラモリ』に登場する紳士服の豆知識はおもしろいですよね。たとえば紳士靴の「グッドイヤー・ウェルテッド製法」なんかの話を知ると、「高いものには理由があるんだな」と思います。
iko 洋服って個々の値段の差が大きいじゃないですか。かたや数百円で買えるTシャツが、ブランド物になると1枚5000円以上もしたりして。でも、その差に理由があることがわかれば、皆さん安心して買い物ができると思うんですよね。それってお店側にとってもクレームが減るので、一番いい買い物の仕方だなと思っていて。
実際、「『テラモリ』を読んで父にネクタイをプレゼントしました」とか「彼氏にシャツを買いたいなと思っていたんだけど、『テラモリ』を読んで勉強になりました」といった内容のコメントをいただくようになり、ハウツーの要素も求められていないわけじゃないんだなというのがみえてきたところです。
――納得して買い物ができるかどうかって大きいですよね。『テラモリ』スタッフの接客もそこに焦点が置かれている気がします。では、ここらあたりでiko先生のスーツ愛についておうかがいしたいのですが。
担当 基本的に「萌え」というより、きちんとした知識に基づいて描いていらっしゃいますよね。私が「男の人が片手でシャッとネクタイを外す姿ってカッコいいですよね」って言っても、「あんなふうに外したらネクタイが傷みます」って冷静に言われたり(笑)。
――それでも萌えている読者の方は多いと思いますよ。毎回、登場人物のスーツのコーディネートが変わりますし、だれでも好きな1着が見つかるというか。
iko 各キャラクターの性格に合わせて着せるスーツを選んでいるんですよ。ちゃらっぽい大橋はパーティっぽいスーツとか、店長は30代後半なのでちょいワル風とか、新キャラの薬院はビジネスシーンではありえない裾の短さで靴下が見えちゃってるとか。
あと、あまりエグゼクティブすぎるスーツだと「自分と関係ない世界の話だ」と思われてしまうかもしれないので、そのあたりの距離感も気をつけています。
――女性陣の制服もかわいいですよね。
iko メンズばかり着替えていると女子がかわいそうなので、シャツのデザインとかもシーズンごとに変えたりしています。
――ファッションがきちんと描かれていると、目で見る楽しさが増えますよね。
iko コメント欄で「あの時の平尾のネクタイの柄が素敵だった」「あの回のスーツがカッコよかった」と言ってもらえるとうれしいですね。
――スーツのモデルはあるんですか? それともオリジナル?
iko いやいや、(オリジナルだなんて)そんな才能はないです。いろんな雑誌を見ながら描いているんですが、絵に落とすと写真のカッコよさが出ないんですよね……。
――いえいえ充分カッコイイですよ。
iko スーツって肩パッドとか入ってるし、男性らしいシルエットが出るようデザインされているじゃないですか。男性をイケメン化する“魔法の鎧”のようなものだと思います(笑)。
――ではあらためまして、現在絶賛発売中の『テラモリ』第4巻の見どころをお願いします。
iko それは担当さんがうまく紹介してくださると思います(笑)。
担当 4巻ではついに恋が発展するのか!? という「マンガワン」での掲載で『テラモリ』史上過去最高コメント数を獲得した回が収録されています。恋愛はもちろん、人間関係もグッ! と動きますのでどうぞお楽しみに。
さらに、4巻にはネームをもらった瞬間、思わず「でゅふふふ♡」と気持ち悪い声を出した後に「やばっ!やばっ!」と鼻息が荒くなってしまったおまけマンガが収録されています。
これは「マンガワン」には未掲載で、単行本だけでお楽しみいただける内容になっていますので、アプリで読まれている方も、改めて楽しんでいただけると思います。
iko あと、平尾の元カノが出てきまーす。
担当 元カノはかなりの波乱を巻き起こしますよ。じっくり読むと平尾視点で元カノと高宮を見較べることもできますし、今後、平尾が変わっていく伏線も張りめぐらされているので、全部のコマをじっくり見ていただければと思います。
iko 完璧なご紹介をありがとうございます。私、今日お話しすることを忘れないようにメモを書いてきたんですけど、「4巻の見どころ=平尾の少女マンガ」としか書いてないですもん(笑)。
――では、最後に読者のみなさまに、メッセージをお願いします。
iko すでに『テラモリ』を読んでくださっている方は、これからもっとキャラクターを掘り下げながら恋愛の話も仕事の話もがんばって描いていきますので、よろしくお願いいたします。
初めましての方は、スーツ屋を舞台に役に立つ話、力になるような話、仕事でミスした時でも元気になるような話を描いていきますので、ご興味を持っていただいた方は、ぜひぜひお手にとっていただければうれしいです。
取材・構成:山脇麻生