人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、iko先生!
スーツ屋「テーラー森」で働く人々を通し、仕事に向き合う人ならだれでも共感できる喜びや痛みを描いたアパレルコメディ『テラモリ』。
「このマンガがすごい!WEB」の“スーツ着こなし男子”マンガ第1位に輝いた本作は、最新第4巻が7月12日に発売になったばかり。毎週本作が連載されているコミックアプリ「マンガワン」でも、『テラモリ』過去最高コメント数を叩きだした“神回”がこの巻に収録されているとあり、注目が集まっています。
そこで、最新刊の発売を記念して作者のiko先生を直撃! 高い時給につられて「テーラー森」で働くことになったコミュ障気味のオタク女子大生・高宮のキャラクターはどうやって作られたのか、などの誕生&創作秘話とともにiko先生のルーツに迫ります。
“スーツ着こなし男子”マンガ(第1位)での紹介はコチラ!
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祝☆スーツ着こなし男子”マンガ第1位!
『テラモリ』誕生秘話に迫る
――『テラモリ』が、「このマンガがすごい!WEB」の“スーツ着こなし男子”マンガランキングという特集企画で、第1位にランクインしましたよね。
iko とりあえず恐縮です……。まだまだ勉強不足で、まわりの方々に協力いただいてなんとかやっています。もっといいスーツマンガ、ヒューマンドラマが描けるよう、これからもがんばります。
――iko先生は、スーツ会社に務めていたことがあるんですよね。なぜスーツ会社に就職されたんですか?
iko 私、たぶんオタクなんですけど、比較的社交的なオタクで、接客が絡む仕事をしてみたいなというのがあったんです。面接を受けてみたら人事の方がみんなイケメンでしゃべり上手。女性社員の方も皆さんキレイで、…面接の時みんなポワポワ~♡となっていました。後からそれは作戦だったとバラされたんですけどね(笑)。
――リアル『テラモリ』じゃないですか! その頃の思い出や印象に残っているエピソードはありますか?
iko 女性もののスーツを扱うフロアを任されていた時、売上目標に達していない日があって。「あと5万売らなきゃ」という時に主婦業をしながらバリバリ働いていますという私より10歳ぐらい上のキャリアウーマンの奥様がいらしたんです。「転職活動用のスーツを探しにきたんだよ」って。
会社にもよりますが、キャリアウーマンの方だとあまり地味なスーツを着ても意味がないということで、明るめのグレーのスーツにフリルのシャツをお買い求めになったんです。そこで売り上げがたったことより、とにかくその奥様に接客するのが楽しくて。1週間後、奥様がまたお店にいらして、「あなたのおかげで受かったわよ」って言ってくださったんです。それがうれしくて、「仕事っていいなあ」って。本当はスーツを着なくても受かりそうな仕事のできそうな方だったんですけどね(笑)。
そんなエピソードがたくさんあって、いつかマンガに描きたいと思っていました。
――忙しいとはいえ、マンガにしたいという思いはあったんですね。
iko そういう思いが心のなかにありながらも、でも描く時間ないな~、どうせ描かないな~みたいな感じでした。
――作品には、iko先生の生のエピソードが活きていますよね。少しずつ仕事の楽しさにのめりこんでいく高宮はもちろん、本社の方針と現場との軋轢で悩む中間管理職という役どころの平尾にも共感できます。
iko 接客業ではあるんですけど、職場の人間関係や仕事上の悩みってほかの業種にも共通するものがあると思うので、いろんな方に共感していただけるのではないかと思いながら描いています。
――iko先生は一度就職されたわけですが、そもそも就職前には、漫画家への道を考えなかったのでしょうか。
iko 小学生とかの小さな頃から、ずっと漫画家になることを夢見ていました。もともと母がマンガ好きで、少女マンガ誌を買っていたことも関係あるのかもしれません。
――そうなんですね! ちなみに、当時はどんな作品が好きだったんですか?
iko パッと思いつくのは田村先生の『BASARA』ですね。「少女コミック」系だと『風光る』や『BANANA FISH』。「花とゆめ」も大好きで、『紅茶王子』や『フルーツバスケット』、『彼氏彼女の事情』も。少年誌も読んでいたんですけど、振り返ってみるとやはり女性マンガのほうが思い入れありますね。
――おー! とはいえiko先生の絵柄は少女マンガ少女マンガしていないといいますか……絵はどなたの影響を受けているのでしょう?
iko 『ファイナルファンタジーⅦ』のキャラクターデザインをしていた野村哲也先生の絵に一番影響を受けていると思います。野村先生ってキャラクターの目のなかに点をひとつ描かれるんですけど、初めて見た時は「こんなイケメンがいるんだ!」って衝撃でした。
小中学生の頃は「自分で描くと、どうしてあんな風にかっこよくならないんだ~」と葛藤しながらクラウド(『ファイナルファンタジーⅦ』の主人公)ばっかり描いてましたね。自由帳17冊分ぐらいにマンガを描いて、クラスの男子に読んでもらったりして。そこから少しずつ少女マンガ風になっていった感じです。
――マンガはずっと描かれていたんですね。たしか、大学3年の時に持ち込みをされたと聞いたのですが、その時はどんなマンガを描かれていたんですか?
iko ギャグマンガを描いていました。就職活動をしなければならないという崖っぷちのなかで持ち込みをして、担当さんがつき、賞もいただきました。
だけど、今って担当さんがついてもデビューまでに時間がかかるじゃないですか。親に大学に行かせていただいた身でもありますので、実力不足だと諦めてスーツ会社に就職したんです。4~5年務めていたんですけどその間は忙しくて、夜は11時をまわることも。あんなに好きだったマンガを描く余裕もなくオタク業から離れていました。結婚を機に退職して主婦業とパートをしていたら、友だちに「マンガ描かないの?」と言われてハッとして。
自分でHPを立ち上げて『テラモリ』を連載してみたらネットで話題になって、「裏サンデー」編集部さんにお声がけいただいたという感じです。
――WEBで描かれていた頃と今の『テラモリ』は、同じ内容なんですか?
iko いえ。WEBでは高宮と平尾の2人が「ネクタイの結び方はこうするんだよ」なんてやりとりをする超基本的なハウツーマンガを発表していました。それをまとめてコミティアで売ったんですが……まあこれが売れなくて、現実を突きつけられました(笑)。
そこで「みんなが求めているのはハウツーではなくドラマなんだ!」と気づいたんですけど、高宮と平尾の2人だけでは経営が立ちいかない。そこで現場の頃を思い出しながら、スーツ屋を経営するのに必要最低限の人数までキャラクターを増やしました。最初から仕事ができる主人公だとつまらないので高宮をコミュ障気味のオタク女子大生にして、内容も思いっきりギャグに走ったら、アクセス数が伸びたんですね。
だったら続けてみるかと思って続けたらまたアクセス数が伸びて、という感じです。
担当 その頃の「裏サンデー」には女性向けのマンガがなかったんです。そのなかで「マンガワン」を立ち上げるという時に、WEBで圧倒的に人気のあったiko先生のお力をお借りできればと。