長期連載ではキャラクターの内面を掘り下げたい
――キャラクターのそうした人間像に、説得力を感じます。由奈が行動を起こしていくのも、1つひとつに必然性があるなと思うんです。
咲坂 そのへんはけっこう考えています。消極的だった子が積極的になるには、だれかに大事にされているとか……由奈にとっては朱里なわけですけど、そういう安心感がないと踏み切れるものじゃない。承認された安心感があることで心が開けると思うんです。そういうシーンを織りこんで、自然に由奈の変化が見せられればいいなと。
――人って、急にがんばろうと思ってもがんばれるものじゃないですからね。
咲坂 そう、がんばれるようになるには、必ずきっかけがあるはず。だから、由奈が朱里や理央に受け入れてもらえてると認識して、ちょっとずつ外に向けて発信できる女の子になっていけばいいなと思って描いています。
――最初に、由奈は内気で、朱里はサバサバしているという提示がありますが、だんだんそうもいいきれないところが見えてくるのがおもしろいです。結局、人の性格ってひとことでいいきれるものじゃないんだと。
咲坂 そういうことも描きたいことのひとつですね。朱里はなんにでも積極的で自信があるように見えるけど、たぶんそうじゃない。自分で気づいてないくらいだけどホントは自分に自信がないから、ちょっと自分を好いてくれる子にほだされちゃったりするのかもしれない。
――こたえてしまうんですね。ものすごく周囲を見ていて空気を読んだ上で、サバサバ振る舞ってるとも思えます。
咲坂 短編だったら一発でわかりやすいキャラを描くことが求められますが、人物を深く掘り下げて描けるのは長い連載期間をもらえているからこそだと思っています。そういう性格描写をシーンに絡めてうまく描けたらと、常に考えていて。
――特に気に入っているシーンはありますか?
咲坂 1巻で、最初に由奈ががんばったシーンかな。朱里がほかの子の彼氏に手を出してるという噂が流れて。それをいいふらしている子に「謝って」といいに行く場面。
――勢いで行くんじゃなく、勇気を奮い起こしていく感じが伝わってきます。
咲坂 由奈はふだんでも下を向きがちなんですけど、このとき手で顔を押さえてるんですよ。うつむいてしまわないように。
――あっ! これは気づきませんでした。
咲坂 たぶんだれも気づいてないんじゃないかな……私だけがわかる由奈の健気さです(笑)。由奈にも一瞬はその噂を信じた罪悪感があるから、こういう行動に出たんです。これまでの由奈だったら絶対しないことを、すごくがんばってやり遂げたシーンです。