複雑化する現代。
この情報化社会では、日々さまざまなニュースが飛び交っています。だけど、ニュースを見聞きするだけでは、いまいちピンとこなかったりすることも……。
そんなときはマンガを読もう! マンガを読めば、世相が見えてくる!? マンガから時代を読み解くカギを見つけ出そう! それが本企画、週刊「このマンガ」B級ニュースです。
今回は、「伝説のクソゲー『たけしの挑戦状』が帰ってくる!」について。
『たけしの挑戦状虎の巻―たけし直伝 』
ビートたけし 太田出版 ¥416+税
(1986年12月発売)
あの『たけしの挑戦状』が帰ってくるッ!
『たけしの挑戦状』とは、1986年にタイトーから発売されたファミコン用ソフトだ。
ビートたけしが初めてテレビゲームを監修するということで世間の耳目を集めながら、あまりに理不尽すぎるゲームバランスのせいでクリアできないユーザーが続出!
「伝説のクソゲー」の名をほしいままにした、ゲーム界のレジェンド的作品である。
その『たけしの挑戦状』がVR(バーチャル・リアリティ)として復活する!
……というのは、4月1日にタイトーが公表したエイプリルフール・ネタだが、なんとスマホゲームとして正式に復活することがリリースされたのだ。
レトロゲームをスマホで復刻する「TAITO CLASSICS」の一環として今夏の配信が予定されており、しかも追加コンテンツまでもが予定されているらしい。
これは目が離せない!
なにしろ1980年代中盤以降のビートたけしは、著作、俳優、歌手、たけしプロレス軍団(TPG、ビッグ・バン・ベイダーを輩出)、映画(処女作『その男、凶暴につき』は1989年)と、様々な業界に「挑戦状」を叩きつけていった。その流れのなかでゲーム業界に参入したのが『たけしの挑戦状』なのだが、彼のチャレンジング・スピリッツは衰えることを知らない。もちろんマンガ業界にも参戦しているのだ。
とはいえ、ビートたけしがマンガを描いたわけではない。ではどのような形でマンガ業界に乗りこんでいったのか?
その方法を、今回は紹介していく。マンガ業界で見せた様々なビートたけしの姿、すなわちマンガ界における「TAKESHIS’」を追っていこう。
『さくらももこのcalbeeひとくち劇場』 上巻
さくらももこ 集英社 ¥900+税
(2015年12月18日発売)
いちばん最近の作品では『さくらももこのcalbeeひとくち劇場』があげられる。
本作は、もともとはカルビーのアニメーションCMシリーズ「ひとくち劇場」として、ビートたけしが原案を担当し、さくらももこが作画を担当していたものである。
それをLINEマンガとして配信したのが、本作『さくらももこのcalbeeひとくち劇場』だ。
「ひとくち町」を舞台に住民たちがナンセンスギャグを繰り広げるほんわかコメディ……なのだが、なにしろビートたけしのアイデアに、さくらももこ特有のキテレツなキャラデザインがあいまっているので、シュールをとおり越してカオスになっている。
ちなみに本作のコミックス版は上下巻で刊行されている。これはなんとフルカラーで、さらにさくらももこの父・ヒロシの考えたキャラクターまで登場する特別企画も!
本作におけるビートたけしの関わり方は、「原案者」である。
『草野球の神様』
ビートたけし(原作)水島新司(漫画) 講談社 ¥505+税
(1999年12月4日発売)
ビートたけしといえば野球好きとしても有名だ。
たけし軍団の草野球チームは1991年には阪神タイガースのファン感謝デーで阪神の2軍と対戦し、勝利した実績がある。たけし軍団の一員に水島新司の息子・水島新太郎が所属していた縁もあってか、1999年には講談社「Mr.マガジン」にて水島新司とのタッグが実現。原作・ビートたけし、作画・水島新司による短編『草野球の神様』が生まれた。
本作はビートたけしの小説『草野球の神様』(新潮社刊)のコミカライズである。原作小説には表題作を含めて5編の短編が収録されているが、そのうち『約束』『ミスター・バーディー』『草野球の神様(前・後編)』の3編が水島新司の手によってマンガになった。
表題作『草野球の神様』は、商店街の喫茶店のマスターが常連客を集めてつくった草野球チームが舞台となる。下手くそなうえに遅刻する者もいるような弱小チームがホームレスのアドバイスによってめきめきと力をつけていく、というサクセスストーリーを基本線に、謎に包まれた“神様”ことホームレス男性の生涯がクローズアップされていく。
全編を通じてなるほど水島作品の短編らしい仕上がりを見せているが、キャラの人物設定や作品の幕の引き方に北野武監督作品の映画のようなペーソスを感じさせ、不思議な読後感を与えてくれる作品だ。
本作におけるビートたけしの役割は「原作者」である。
『浮浪雲』 第109巻
ジョージ秋山 小学館 ¥552+税
(2017年2月28日発売)
そして最後に『浮浪雲(はぐれぐも)』(ジョージ秋山)をピックアップしたい。
小学館「ビッグコミックオリジナル」にて1973年から連載されている、日本を代表する長期連載作品である。
品川宿の問屋「夢屋」の主人・雲は、仕事もせずにいつも酒や女と遊んでばかり。激昂することはなく、「おねえちゃん、あちきと遊ばない?」とつねに浮世離れした様子だ。
本作は過去に何度もメディア化されたことがあるが、このうち1990年にTBS系列で実写ドラマ化された時に、主人公の雲役を演じたのがビートたけしであった。雲の妻・かめ役は大原麗子が演じるなど話題を集め、「ニューウェーブ時代劇」と銘打って現代語を積極的に使って新機軸を打ち出したものの、視聴率は振るわず。とはいえ、ひょうひょうとした雲の役をビートたけしは怪演し、見る者の記憶に大きなインパクトを与えた。
本作におけるビートたけしは「実写化されたドラマの主演俳優」というわけだ。
当時のファミコンは、ソフト1本あたりの容量はわずか2MB足らず。その低容量で、たけしのアイデアを愚直に実現しようと試みたのが『たけしの挑戦状』であった(詳細は太田出版『超クソゲー』を参照のこと)。
誰もが“天才”たけしの頭のなかをのぞいてみたいと思っていた時代に、ゲームという新ジャンルで“天才”のアイデアをパッキングした本作は、ビートたけしという一個の才人を知るうえで貴重な資料としての側面もある……のかもしれない。
ともあれ、「伝説のクソゲー」とみずから喧伝してリリースするのは、タイトーからの「挑戦状」とも受けとれる。
キミはこの挑戦を受けるかッッ!?
まぁ、必死になってプレイしても、「こんな げーむに まじになっちゃって どうするの」といわれるのが関の山だろうけれど。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama