そんな日々は終わりを告げ、微妙に保たれていた「優しさのバランス」もしだいにほころび始める。たとえば、だれひとりとしてお客が来ない日曜日、家賃を取り立てに来る大家さん。
小学生の頃も52,115円も持っていったが、今度は手持ちの62,100円を根こそぎ。前は全力を出していなかった……? しかも「キチンと未納分は把握しとるし」と記録まで付けており、「小学生に対する甘さ」がなくなっている。
さらにリンちゃんが天使、ある意味でポジティブなKYから卒業しつつあるのが、辛いスパイスをよりキツめにしてる。常連のお客さんが、リンちゃんのつくった甘ったるいカレーを、水をおかわりしながら我慢して食べていることを察し、譲ってもらった中学の制服がツギハギだらけで、タダでもらったことがうれしい……といえないぐらい見た目を気にするようになった。お年頃になったことで、貧乏のほろ苦さがグッと増している。
お店に自慢のメニューもない、金運もない、きれいな服もない。しかも、ちょうど80年代~90年代のバブルまっただなかという無慈悲さ。スーファミの名前だけ出てくるが、そもそもゲームを買うお金がないので本体がマンガに出てこられない!
将来は“ある未来をむかえる”ハッピーエンド(餓死はしない)はわかってます。わかってますが、もう少しリンちゃんに優しくしてもらえませんか……という感情が湧き起こる。こんなレアな体験ができるマンガ、ほかにないですよね。
\『ひとり暮らしの中学生』のマンガが現在、無料連載中! 2月28日に最新話を更新予定!/
<文・多根清史>
『オトナアニメ』(洋泉社)スーパーバイザー/フリーライター。著書に『ガンダムがわかれば世界がわかる』(宝島社)、『教養としてのゲーム史』(筑摩書房)、共著に『超クソゲー3』、『超ファミコン』(ともに太田出版)など。