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『子供はわかってあげない』(田島列島)ロングレビュー! “ひと夏の経験”が、少年少女をほんのり大人に近づける

2014/11/12


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サクタさんの実父は怪しい新興宗教団体の教祖で、しかも教団のお金を盗んで逃走中らしい……というミステリ要素でぐいぐい読ませる序盤から、思春期の甘酸っぱさが炸裂する終盤まで、散りばめられた小ネタにクスリとさせられながら一気に読み終えてしまう。
少女は家族に嘘をついて旅に出る。少年は少女を追ってまた旅に出る。大人になるための、通過儀礼としての旅。そしてこの世界ではいつだって、女の子がちょっとだけ先に大人になるものである。

探偵業を営むもじくんの兄(左の“女性”です。念のため……)に捜索を依頼したところ、とんとん拍子に話は進んで……。

探偵業を営むもじくんの兄(左の“女性”です。念のため……)に捜索を依頼したところ、とんとん拍子に話は進んで……。

そして「大人」になるということは、だれかを「わかってあげる」ことだ。
意味不明な超能力を持ち、それゆえに母と別れ、以来一度も会うことがなかったサクタさんの実父。性転換したもじくんの兄を赦さなかった厳格な祖父。家族を思うあまり犯罪に手を染めた“彼”。だれもが一生懸命に生きてきた結果としての今であるならば、モヤモヤと思ったり、憎んだり、断罪したりするよりも、赦し合ったほうが人生はずっと楽しい。
作中でももじくんの兄が言っている。「笑う門には福来たる」と。

かつての師匠のもとに身を寄せる実父に会えたサクタさん。話しにくいのは異性の親だからだけではなさそうだ。

かつての師匠のもとに身を寄せる実父に会えたサクタさん。話しにくいのは異性の親だからだけではなさそうだ。

嘘をついて実父に会いに行ったサクタさんを、母はあっさりと赦す。「美波は美波なりに考えて……家族を守ろうと思ったんじゃないの?」「ありがとうね美波」「でも次はウソつかないで行ってね」。犯罪に手を染めた“彼”の両親もまた“彼”を積極的に赦すことだろう。

わかってくれている大人に見守られて、子供たちは大人になる。不寛容よりも寛容を。憎しみよりも笑いを。冒頭で「お互いつまらん人生を歩んできたねー」と語り合うサクタさんともじくんの人生は、ひと夏を経てあっと言う間にバラ色に彩られた。
楽しい人生を送るためのシンプルな真理を濃密な物語に込めてみせた、堂々たる上下巻である。


『子供はわかってあげない』著者の田島列島先生から、コメントをいただきました!

著者:田島列島

こんなに褒めてもらえて、幸せな作品だと思いました。

ありがとうございます。





<文・小田真琴>
女子マンガ研究家、マンガレビュアー。男。学生時代に片思いしていた女子と共通の話題がほしかったから……という不純な理由で少女マンガを読み始めるものの、いつの間にやらどっぷりはまって、ついには仕事にしてしまった。「SPUR」(集英社)にて「マンガの中の私たち」、「婦人画報」(ハースト婦人画報社)にて「小田真琴の現代コミック考」、Webマガジン「サイゾーウーマン」にて「女子マンガ月報」を連載中。



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