ヤコとポコの関係は、姉と弟のようだ。完成原稿をヤコが編集部に届ける間、決まってポコはおこづかいを握りしめて近くのゲーセンで待つ、そんな姿もほほえましい。ひとりで遊ぶときも、ポコはヤコを思っている。もぐらたたきの途中で高得点を狙わず、わざとハンマーを持つ手を止めたのは「残念賞」の文房具をもらうため。そのなかに、ヤコが集めているペンがあるかもしれないと思ったからなのだ。
“てきとうモード”で暮らす2人の生活は、ささやかだ。「あのペンが欲しいな」「もうちょっとこうだったらな」と思うことはある。しかし、そんなふうに――大きな欲ではない、具体的な「もうちょっと」を望んでいる暮らしは、とても豊かに思える。そして……好きな人、好かれたい人がそばにいる。ヤコとポコを見ていると、それだけで十分ではないかという想いが広がるのだ。
そういえば、この物語は近未来の設定だが、部分的には今より「ちょっと不便」なようだ。「昔のパソコンは一瞬で検索できたらしい」「しかも昔の人たちは電話やパソコンを持ち歩いていたらしい」と語る登場人物たちは、そんな時代はまるで想像できないといった顔だ。本作に漂うどこか懐かしくゆっくりして温かな雰囲気は、スマホのない時代ゆえのものか。
そこは真似できないにしても、私たちだって“てきとうモード”を取り入れてもいいかもしれない。
お疲れのみなさん、週に1日くらいポコになった気分で暮らしてみては?
『ヤコとポコ』著者の水沢悦子先生から、コメントをいただきました!
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
「ド少女文庫」