人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、蝉川夏哉先生!
京都の街中にひっそりと開店したはずのフツーの居酒屋「のぶ」。しかし、表口がなんと古都(異世界)につながった!?
発売後、反響を呼び、ますます勢いを増す『異世界居酒屋「のぶ」しのぶと大将の古都ごはん』。今回は、原作者の蝉川先生にコミカライズの楽しみ方、今後の展開についてうかがいました。
今後は珍味も登場するかも!?
――大好評発売中の『古都ごはん』ですが、本作は単品でも読めるけれど、原作小説1巻を読むと内容がよりわかるという構造になっていますよね。
蝉川 そうですね。逆に『古都ごはん』を読んでから原作1巻といっしょに読んだら、小説のほうでも理解の深みが増して、2度楽しい楽しみ方もできると思います。どっちが先ということもないのですが、両方読んでいただいたら一番相互補完的になると思います。
もちろん、原作小説ではなくて「ヤングエース」で連載中のヴァージニア二等兵先生のコミカライズと、『古都ごはん』をあわせて読むのもいいと思います。いずれにしてもこの話はどっちが主従というのではなくて、あわせてひとつのストーリーになるんじゃないかと思っていますね。
だからゲーアノートの日誌とかも含めて、補完だけじゃないですけど、これでひとつの話になっているかなと思いますので、楽しんでいただけたらな、と。
――原作小説でもそうですが、『古都ごはん』では異世界と日本の文化が交わって変化していくことを描いていたように感じます。蝉川先生は食文化の違いや変化をどのように捉えていますか?
蝉川 私は「富士そば」が好きなのですが、関西と関東では蕎麦が全然違うんですよね。関東は関西よりも昔から蕎麦食の文化があって、その発達は土地の関係や出汁の関係が入り混じって、関東だからこそできあがった文化──その土地で育まれた食文化なんです。
一方で、最近はカツカレーがイギリスで人気になっているという食文化の伝播もある。カレーはインド発祥でイギリスに伝わり、それが日本にやってきて独自の進化をしてそれがカツカレーとしてもう一度イギリスに帰ってきた。このカレーの伝播についても、もとの土地から少数の人によって外から持ち込まれたわけですよね。もともとその土地で育まれた食文化に、だれかが一石を投じることによって、変化が生じていくものです。『のぶ』でも、まず異世界の古都という場所に根付いた食文化というものがあって、そこに居酒屋のぶという一石を投じてみているんです。それがどういった影響になっていくかは今後ゆっくりと描いていきたいですね。
――好きな居酒屋メニューはなんでしょう? また、今後『のぶ』に出したい料理は?
蝉川 居酒屋メニューはほとんど好きなんですけれど、とくにだし巻き玉子が好きですね。だし巻き玉子はそのお店がどういう想いで料理を作っているのかの一端が見えると思います。今後『のぶ』に出していきたいメニューとしては、いままではなるべく多くの人が食べたことのある料理をメインに考えていたんですけども、これから少しずつ酒飲みの人が食べるような肴にも脚光を当てていければと思っています。
――珍味など出てくるといいですね。
蝉川 日本の居酒屋の珍味も、古都側の世界で食べられているものも出してみたいですね。たとえば、チーズなんかは足の裏みたいな臭いのする種類もある。ウォッシュタイプという、菌によって表面が発酵しているから強烈な臭いがある種類のチーズです。そういった臭い珍味を出すかどうかは別として、お酒を飲む人が読んでも新たな発見がある品を出せればという思いもあります。
グルメものを小説で書くと、マンガとは違って文字で表現しなければいけなくて、その食べ物の見た目や味をイメージできないと食べている実感が湧かない、というところがあります。それを意識して、多くの人が食べたことある料理を出しているのですが、今となっては1冊のなかで2つか3つくらいは珍味を出しても大丈夫なくらい、読者の方々もついてきてくれると思っています。
――ちなみに……原作小説5巻はいかがでしょう。
蝉川 現在鋭意制作中です。お楽しみに!
――蝉川先生、ありがとうございました!
取材・構成:岡田勘一