サリフィは王の秘密を知る。
命ながらえたはずの彼女だが、しかし自分は帰る場所などないから「おーさまに食べられたい」とほほえむ。
王はそんな彼女を――なんと、妃にしてしまうのだ。
むろん、獣と人間のカップルが、しかも王とその妃であるなど、この世界で素直に受け入れられるはずもない。
彼らの前には、いくつものハードルが待ち受ける。
しかし彼らはそれを、お互いを想いあいつつ、ひとつひとつ乗り越えていく――。
本作の魅力は多々あるが、まずは世界観とキャラクター設定を挙げたい。
何よりも、主役の2人がすばらしい。
サリフィの屈託のない無邪気さ、魔族をも恐れぬ肝のすわった性格、コミュ力もなかなか高くて、しかも自分をいつわらない素直さがある。
しかしその陰には、いつでも静かな諦めが横たわっている。
一方の王は剛胆で厳しく見えるがひどく繊細で、人を気づかう優しさに満ちている。
いかめしい表情が、サリフィの前では少しだけゆるむのもいい。
ちょうどいいバランス、絶妙なギャップ。これがなんといっても作品全体の好感度を倍増しさせている。
また、緩急のつけ方もいいのだ。
コミカルな場面の挟み方がほどよくて、ストーリーが重くなりすぎないよう、また気持ちよく読み進められるように工夫がなされている。
キュクやロプスといった脇役もそれに一役買っていて、いやし、かつホッとする場面も多々あることがうれしい。
最後に、2人の名前について挙げよう。
犠牲の意味を持つサリフィが、王に名前をつける場面がある。
本来なら王が妃に真名を与えるのが筋かと思うが、それが逆であることで、なおさら意義が大きい。
彼女から名前をもらった王は、魂そのものを塗り替えられたかのように、前向きになっていく。
そう考えると、いずれサリフィも、犠牲を意味する名ではなく新たな名前を授けられる時が来るのか? などと余計な深読みをしてしまうほど。
冒頭で主役2人について述べた時に、「ある意味で諦めた者同士」と記した。
諦めというのは、一方では執着を手放し、受け入れて、身軽になるということにほかならない。
そんな2人がつながった今、彼らの恋のゆくえはもちろん、魔族と人間の関係がどう変わっていくのか、この先が楽しみだ。
<文・山王さくらこ>
ゲームシナリオなど女性向けのライティングやってます。思考回路は基本的に乙女系&スピ系。
相方と情報発信ブログ始めました。主にクラシックやバレエ担当。
ブログ「この青はきみの青」