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『贄姫と獣の王』(友藤結)ロングレビュー! 自由な生贄と心優しい魔王、2人が織りなすは運命の恋物語

2016/07/09


突然現れた、長髪で美貌の青年。彼はサリフィを救うが、その理由とは? その正体とは――?

突然現れた、長髪で美貌の青年。彼はサリフィを救うが、その理由とは? その正体とは――?

サリフィは王の秘密を知る。
命ながらえたはずの彼女だが、しかし自分は帰る場所などないから「おーさまに食べられたい」とほほえむ。
王はそんな彼女を――なんと、妃にしてしまうのだ。

むろん、獣と人間のカップルが、しかも王とその妃であるなど、この世界で素直に受け入れられるはずもない。
彼らの前には、いくつものハードルが待ち受ける。
しかし彼らはそれを、お互いを想いあいつつ、ひとつひとつ乗り越えていく――。

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本作の魅力は多々あるが、まずは世界観とキャラクター設定を挙げたい。
何よりも、主役の2人がすばらしい。
サリフィの屈託のない無邪気さ、魔族をも恐れぬ肝のすわった性格、コミュ力もなかなか高くて、しかも自分をいつわらない素直さがある。
しかしその陰には、いつでも静かな諦めが横たわっている。

一方の王は剛胆で厳しく見えるがひどく繊細で、人を気づかう優しさに満ちている。
いかめしい表情が、サリフィの前では少しだけゆるむのもいい。
ちょうどいいバランス、絶妙なギャップ。これがなんといっても作品全体の好感度を倍増しさせている。

また、緩急のつけ方もいいのだ。

そんなでっかい爪でほっぺぷにって(笑)。王様がどれだけ加減して彼女に触れてるのかと思うとほほえましくてならない。

そんなでっかい爪でほっぺぷにって(笑)。王様がどれだけ加減して彼女に触れてるのかと思うとほほえましくてならない。

コミカルな場面の挟み方がほどよくて、ストーリーが重くなりすぎないよう、また気持ちよく読み進められるように工夫がなされている。
キュクやロプスといった脇役もそれに一役買っていて、いやし、かつホッとする場面も多々あることがうれしい。

最後に、2人の名前について挙げよう。
犠牲の意味を持つサリフィが、王に名前をつける場面がある。
本来なら王が妃に真名を与えるのが筋かと思うが、それが逆であることで、なおさら意義が大きい。
彼女から名前をもらった王は、魂そのものを塗り替えられたかのように、前向きになっていく。
そう考えると、いずれサリフィも、犠牲を意味する名ではなく新たな名前を授けられる時が来るのか? などと余計な深読みをしてしまうほど。

冒頭で主役2人について述べた時に、「ある意味で諦めた者同士」と記した。
諦めというのは、一方では執着を手放し、受け入れて、身軽になるということにほかならない。
そんな2人がつながった今、彼らの恋のゆくえはもちろん、魔族と人間の関係がどう変わっていくのか、この先が楽しみだ。

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<文・山王さくらこ>
ゲームシナリオなど女性向けのライティングやってます。思考回路は基本的に乙女系&スピ系。
相方と情報発信ブログ始めました。主にクラシックやバレエ担当。
ブログ「この青はきみの青」

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