話題の“あの”マンガの魅力を、作中カットとともにたっぷり紹介するロングレビュー。ときには漫画家ご本人からのコメントも!
今回紹介するのは『ウルトラマンタロウ 完全復刻版』
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『ウルトラマンタロウ 完全復刻版』
石川賢とダイナミックプロ 小学館 ¥2,200+税
(2016年6月24日発売)
石川賢の代表作といえば『ゲッターロボ』や『魔獣戦線』、あるいは様々な作品の集大成である『虚無戦記』などが挙げられるだろう。
しかし、この『ウルトラマンタロウ』は、その映像作品があまりに有名すぎるゆえなのか、「石川賢の作品」として語られる機会が少ないという印象もあるのだが、内容のポテンシャルとしては前記の作品群に一歩も遅れをとることはない。
つまるところ、血と暴力に染めあげられた『タロウ』であり、今回刊行された単行本のオビに謳われている「史上最恐」のアオリ文句や、目次の下に記された「現在の倫理上、一般的でない表現がございます(以下略)」という注意書きは、まったくもってハッタリでもなんでもない。
たしかにテレビ版の『タロウ』も、非常に陽性のパブリック・イメージがある一方で、バードンやコスモリキッドといった「人間を食い殺す怪獣」の登場頻度が高いことをはじめとする、ショッキングな側面はある。
しかし、この石川賢版『タロウ』は、そのバイオレンス表現がハンパではないのだ。
物語の冒頭からして、犬のような姿のバケモノに、次々と野犬の群れが喉笛を切り裂かれ、内臓を食い散らかされるという過激な開幕。
いきなりアクセル全開過ぎ! ……と思いきや、こんなものはまだ序の口。あっという間に人間がターゲットとなり、酔漢が臓物をまき散らした無残な姿へと変わり果てる。
だが、そんな表面的な残酷描写だけではない、もっと深い部分で本作はグロテスクだ。
まず、東光太郎がタロウに変身するまでの描写が熾烈極まる。
自らに特別な力を与えられたことを告げられるも、一度はその使命を拒絶。しかし、ある少年を守って全身が焼けただれていくなかで、「力を……力をくれ!!」とウルトラの母に懇願し、ようやくタロウへと変身するのである。光太郎の身が焼けただれてもなお、簡単に変身をさせないとは……石川賢版『タロウ』は、ウルトラの母ですら非情!
しかもタロウの姿になっても爽快に勝利するどころか、第1話で相対するモンスター(奇形獣)に、「おまえも自分と同じ怪物になったのだ」などと言われる始末。
そしてそのモンスターを力まかせに引き裂き、はからずも自らの持つ怪物性を見せつけるかのような形で勝利してしまうタロウ。
……第1話からあまりにもハードすぎる! こんな濃厚なテイストのまま、「少年サンデー」連載版の4エピソードは最後までつっ走るのである。
さらに注目すべきは、今回が単行本初収録となる「小学一年生」に掲載されていた石川賢版『タロウ』。
これがあらためて読めることこそが、この「完全復刻版」の真価であり、奇跡と言っても過言ではない。その内容たるや、児童誌(それも低学年向き)に掲載されていたものだと甘く見ていたら大間違い。バイオレンスの純度に関しては、ヘタをしたらこっちのほうが上であるかもしれない。
もともと人を喰うライブキングや復讐の鬼であったクイントータス&キングトータス、タロウとゾフィを絶命させたバードンたちが、石川賢の手にかかればいかほどに凶暴な怪獣として描かれるかは想像に難くないだろう。
しかし、真にすさまじいのはタロウやウルトラ兄弟たちの残虐ファイトっぷりだ。
あるときはパンチ一発で敵を引き裂き、またあるときはウルトラタイフーンなる3人の合体技で一度に怪獣4体を斬首!
さらに、やたらと落命するウルトラ兄弟(もっとも、後のエピソードではしれっと復活していたりはするのだが)とその仇討ちといった熱い展開の多さも特徴であり、なかでも卑劣なだまし討ちで命を落したA(エース)の仇を討つべく、バルタン星人とメフィラス星人を串刺しの刑に処してしまうタロウの姿はクールの極み。
これはもう、最近ドラスティックな暴力表現で話題の『レッドマン』も、ハダシで逃げだしそうなおそろしさ。繰り返すが、本当にこれが「小学一年生」に……? と、信じがたくなること必至。
これはこれで必見の作品である。
……と、なにかと暴力表現が取りざたされがちな本作ではあるが、「少年サンデー」版の完全オリジナルエピソードについては、それぞれがプロットからして非常に秀逸であることも強調しておきたい。
前述の衝撃的なタロウ誕生編のほか、下水道やマンホール、高速道路などの建造物に殺されていく人間たちを描きつつ、街そのものに生命を与えていた怪物が「地球を人類から救う」という目的を語る「失われた町」(第2話にして最終回レベルの濃厚さ!)、赤ん坊のようなミュータントに洗脳された全国の子どもたちが街を襲撃し、大人の社会を滅ぼそうとする「小さな独裁者」(ガソリン漬けにしたネズミに火を放ち、街を火の海にする描写が白眉!)、そして石川賢作品に通底するモチーフではないかと筆者が感じる鬼が登場し、味わい深い余韻を残して終わる「鬼がくる」と、そのどれもが珠玉の短編であることに疑いの余地はない。
決してやや悪趣味な見地からだけでなく、ウルトラマンシリーズと石川賢の出会いによって誕生した傑作として、本作があらためて多くの人に評価されることを期待したい。
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。