また、背景と人物の描きこみの差によって生じる効果にも着目したい。
たとえば「引っ越しの日」で「昼めしを食べる店」を探しているページ(P.44)は、街並みのリアルさに比して、主人公は極めてシンプルだ。まさにpanpanya作品のルックを象徴するようなシーンである。
このシーンは、物語の主軸が「店を探す」行為であるからこそ、人物より「キャラクターが探している周囲の景色」が優先されている。
しかし、すべてのコマがそのように描かれているわけではない。その直後のページ(P.46)では背景よりも人物に焦点が当たっている。人物の表情(や感情)が支配するコマでは、むしろキャラクターしか描かれていないのだ。
どこにフォーカスして描くか。それによって、いま物語の重心がどこにあるのか、どこに心を寄せて読み進めればいいのか、われわれ読者は自然に察知できる。
つまりこの手法は、物語るために意図的に用いられていることがわかる。
ただし、従来のpanpanya作品は、行き着く先として「読後の味わい」にプライオリティが置かれていたように感じる。それに対して本作『動物たち』の収録作品は、「狢」に代表されるように、ストーリー展開の因果関係の明快さが重視されている。
ある種のわかりやすさのおかげで、「エブリディ・マジック」(日常に不思議が起こり物の見方が少し変わる)の要素が際立つ。それはpanpanya作品が持つ一要素をクローズアップしているのだが、ファンには新境地として映り、初心者には適切なpanpanyaワールドへの入口となる。
まだpanpanya作品に触れていない人にオススメしたいのが『動物たち』なのだ。
この世界を万華鏡でのぞいて見たあとに、元に戻したはずなのに、どこか以前と違う。そんなpanpanyaワールドへと旅立ってほしい。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama