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『動物たち』(panpanya)ロングレビュー! 『足摺り水族館』『枕魚』著者の新境地。「動く物」たちが織り成す“いつもとどこか違う”日常

2017/02/02


また、背景と人物の描きこみの差によって生じる効果にも着目したい。
たとえば「引っ越しの日」で「昼めしを食べる店」を探しているページ(P.44)は、街並みのリアルさに比して、主人公は極めてシンプルだ。まさにpanpanya作品のルックを象徴するようなシーンである。

この場合、主格は手前のキャラクターでなく「定食屋」そのものであることがわかる。

この場合、主格は手前のキャラクターでなく「定食屋」そのものであることがわかる。

このシーンは、物語の主軸が「店を探す」行為であるからこそ、人物より「キャラクターが探している周囲の景色」が優先されている。
しかし、すべてのコマがそのように描かれているわけではない。その直後のページ(P.46)では背景よりも人物に焦点が当たっている。人物の表情(や感情)が支配するコマでは、むしろキャラクターしか描かれていないのだ。

該当の46ページのコマ。読者は自然とキャラクターへ注目する。

該当の46ページのコマ。読者は自然とキャラクターへ注目する。

どこにフォーカスして描くか。それによって、いま物語の重心がどこにあるのか、どこに心を寄せて読み進めればいいのか、われわれ読者は自然に察知できる。
つまりこの手法は、物語るために意図的に用いられていることがわかる。
ただし、従来のpanpanya作品は、行き着く先として「読後の味わい」にプライオリティが置かれていたように感じる。それに対して本作『動物たち』の収録作品は、「狢」に代表されるように、ストーリー展開の因果関係の明快さが重視されている。

狢を救ったことから彼の「恩返し」に思いをはせる主人公。鶴や狐はともかく狢の恩返しって……!?

狢を救ったことから彼の「恩返し」に思いをはせる主人公。鶴や狐はともかく狢の恩返しって……!?

ある種のわかりやすさのおかげで、「エブリディ・マジック」(日常に不思議が起こり物の見方が少し変わる)の要素が際立つ。それはpanpanya作品が持つ一要素をクローズアップしているのだが、ファンには新境地として映り、初心者には適切なpanpanyaワールドへの入口となる。
まだpanpanya作品に触れていない人にオススメしたいのが『動物たち』なのだ。

この世界を万華鏡でのぞいて見たあとに、元に戻したはずなのに、どこか以前と違う。そんなpanpanyaワールドへと旅立ってほしい。



<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama

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