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『アンラッキーヤングメン クウデタア』大塚英志(作) 西川聖蘭(画) 【日刊マンガガイド】

2015/05/07


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『アンラッキーヤングメン クウデタア』
大塚英志(作) 西川聖蘭(画) イースト・プレス \1.300+税
(2015年4月4日発売)


本書は、大塚英志原作の『アンラッキーヤングメン』(漫画:藤原カムイ/KADOKAWA刊)の続編とも言える作品。前作は、学生運動活発な1970年代の「不運なる青年たち」=アンラッキーヤングメンを描いたものであったが、本書はそこから約10年さかのぼった1960年前夜が舞台となる。
その時代において「国家への一撃」(クウデタア)を企てた3人の不運なる少年たちを登場させ、その少年らと2人の文学者――三島由紀夫と石原慎太郎――を絡め、虚実を織りまぜた物語をつむぎだしている(ちなみに、本書の「あとがき」によれば、大塚にはさらにもう1作1950年代前後のアプレゲールと呼ばれた若者たちを描く構想があるようだ)。

前作『アンラッキーヤングメン』は、「連続拳銃射殺事件」「連合赤軍事件」「三億円事件」を背景としていた。
登場する「不運なる青年たち」は北野武を想起させるT、永山則夫をモデルとしたN、そして「連合赤軍事件」の永田洋子を思わせるヨーコといった顔ぶれだ。

一方、本書に登場するのは「小松川事件」(1958年)の犯人であるR、「皇太子婚礼パレード投石事件」(1959年)を起こしたM、そして「浅沼社会党委員長刺殺事件」(1960年)のYという3人の未成年者たちである。
正直なところ、事件も登場人物も前作に比べ、地味な印象を受ける。3つの事件のなかでは「浅沼社会党委員長刺殺事件」は、沢木耕太郎がルポルタージュ『テロルの決算』(文春文庫)でとりあげるなどしたため、もっとも知名度があると思う。その一方で「小松川事件」などは「どんな事件だっけ?」とネットの検索機能のお世話になる人が多かろう。

しかし「描きたいのは『現在』」という大塚にとっては、この3つの事件の選択は必然的なものであったのだろう。
「小松川事件」とは、2人の若い女性が殺害された事件だが、犯人の少年は警察や新聞社に告白の電話をかけたり、自らの犯罪をつづった小説を投稿したりした。「電話」や「小説の投稿」という手段には時代性を感じさせるが、これは現在に脈々とつながる「劇場型犯罪」のはしりともいえる行為である。
また、戦後70年を迎えて、天皇・皇后両陛下に関わる報道が増えるなか、お二方のご成婚パレードの際に、投石して馬車に駆けよった少年がいたことを知ることは、意味があることだと思う(さらにいえば「投石事件」がどのように扱われたかを知ることも)。
そして、世界的にテロリズムの嵐が吹き荒れ、日本や日本人も無関係ではすまなくなってきた時代だからこそ、「テロル」に向かった少年の危うさをふり返っておく必要もあるだろう。

大塚英志は、本書において反日的、左翼的、右翼的と異なる考え方を持った少年たちが惹き起こした事件を「クウデタア」の名のもとにひとつによりあわせて物語を創りあげた。
そうした原作に対し、作画担当の西川聖蘭はがっぷり四つに組み、場面場面は印象的でありながらも、「このコマの意図はなんだろう?」となんか割り切れない読後感を残すマンガに仕立てあげているのである。



<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。『本格ミステリベスト10』(原書房)にてミステリコミックの年間レビューを担当。最近では「名探偵コナンMOOK 探偵少女」(小学館)にコラムを執筆。

単行本情報

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