『戦場まんがシリーズ4 わが青春のアルカディア』
松本零士 小学館
7月10日は、第二次世界大戦において、西部戦線を代表する大規模航空戦「バトル・オブ・ブリテン」が開始された日だ。
イギリス本土への侵攻作戦のために必要な、制空権の確保を目的としてドイツ軍とイギリス空軍がイギリス上空で戦った戦い。結果としてドイツ側の作戦は失敗。
当時のドイツの敗因としてあげられるのが、主力戦闘機であるメッサーシュミット Bf109の性能的問題だ。
もともとドイツ空軍は渡洋しての敵地攻撃を想定しておらず、その空軍の主力であるBf109は航続距離が短い。そのため、はるか遠くのイギリスでの任務には適さない。
そんなドイツ空軍に牙を剥いたのが、イギリス空軍主力戦闘機のスピットファイアだ。
フランスからイギリスまで飛行するという、燃料的に無理のある運用をされた結果、スピットファイアの前に、Bf109は敗北。
スピットファイアはイギリスを救った戦闘機として、現在まで語り継がれている。
今回取りあげる作品は、松本零士の戦場まんがシリーズ第4巻『わが青春のアルカディア』だ。
主人公は、親の代からのパイロットの血が流れるファントム・F・ハーロック二世。
ドイツ空軍に所属する彼は、「わが青春のアルカディア号」と書いた愛機のBf109と、自分の「目」である電影照準器・ReVI C/12Dとともに第二次世界大戦の空を駆け抜ける、凄腕パイロットだった。
あるときハーロックは、Bf109の主脚を折って不時着したところを日本人の青年に助けられる。台場元と名乗るその青年は日本の光学器械メーカーの設計者で、ReVI C/12Dを日本に持ち帰るためにドイツに来ていたのだ。
技術交換という台場の目的を知ったハーロックは「学ぶのは君たちだけだ」というが、それに対して台場は「二万キロにわたる海上の戦線で、日本機はドイツ機の10倍以上の航続距離をもって戦っている」と、バトル・オブ・ブリテンの敗因にもつながった痛いところを突く台場。
ちょっとしたお互いの意地の張り合いから始まった2人の出会いだが、大破したBf109にかわり、ハーロックに与えられた新たなBf109を台場が塗装したことをきっかけに心の距離が縮まっていく。
戦場に生きる異国の者同士の邂逅が繊細に描かれている。
そんな時、連合軍の奇襲が彼らのいる補給基地を襲う。
逃げ場のない台場を同乗させ「わが青春のアルカディア号」を駆るハーロックは決戦に挑む。だが、この最後の戦いで、被弾した「わが青春のアルカディア号」を救うためにとった台場の行動がとにかくイカす!
松本零士作品の「男の中の男」描写のなかでも、トップクラスに位置づけられるであろう男度である。
そんな熱き男たちのドラマだけにおさまらず、ハーロックの「目」がもたらしたラストシーンのせつなさなど、短いなかにも熱さと哀愁が同居する珠玉の短編だ。
戦後70年を迎える2015年の夏は、夏休みがある人もない人も、戦場ドラマを描くマンガとともに過ごすのがマストだろう。
<文・山田幸彦>
91年生、富野由悠季と映画と暴力的な洋ゲーをこよなく愛するライター。怪獣からガンダムまで、節操なく書かせていただいております。
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