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『兎が二匹』第1巻 山うた 【日刊マンガガイド】

2016/03/19


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『兎が二匹』


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『兎が二匹』第1巻
山うた 新潮社 ¥600+税
(2016年2月9日発売)


稲葉すず、398歳。
宇佐美咲朗(サク)、19歳。

不老不死の身体を持つ主人公すずは、およそ400年に及ぶ生涯で、つらい経験を積み重ねてきた。多くの死を見届けてきたすずは、常に死を望むようになる。
そして彼女は、確実に死ぬ方法を模索するために、同居中の恋人サクに、日課として毎朝自分を殺させていた。

第1話の段階では、物語のアウトラインがややコミカルなタッチで語られる。
朝、号泣しながら彼女の首を絞めたその手で、サクはすずの手を取ってデートに出かけていく。屈託のない笑顔で「嫌なこと一瞬で忘れる!」「人呼んで前向きポジティブマン!」と語るサクは、軽薄で、ともすればチャラく見えるだろう。

一方、約400年を生きたすずは、達観したようでいて感情表現に乏しい。
処刑を望んで“自首”した彼女の意図は、うかがい知ることができない。

しかし第2話以降、2人の出会いの物語が紡がれることで、サクが無理に笑顔をつくり続ける理由や、すずの心の奥底に隠された絶望が浮き彫りになっていく。
第1話から遡及的に物語を進めることで、「第1話で示されたキャラクター性」を多面的に掘り下げていく構造になっているのだ。

読み進めるほどに、すずとサクの「すれ違いの痛み」が沁みてくる。すずとサクのそれぞれの涙の重さに、あらためて気づかされてしまう。
第1話という“取り返しのつかない朝”の向こうに、われわれ読者は、なにがしかの希望を見い出すことができるのか。
今もっとも先が気になる物語である。

著者は本作が初連載となる新人。その手腕のみごとさに舌を巻くはずだ。



<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama

単行本情報

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