人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、丹羽庭先生!
主人公は「隠れ特撮ファンのOL」、そして“特オタ”以外にも多彩な立場の登場人物が搭乗する『トクサツガガガ』。単なる「特オタマンガ」としてだけではない魅力に、多くの人がハマっている注目作!
前回は、連載スタートのきっかけ、そしてニッチかつセンシティブといえる題材を扱うにあたってのバランス感覚など、丹羽庭先生の持つ「視点」を中心にお話をうかがいました。
<インタビュー第1弾>
『トクサツガガガ』丹羽庭インタビュー ディープな趣味世界に生きる“特オタ女子”の描写は「ひとつの視点に偏らない!」からこそ生まれた!!
今回は、架空の特撮ヒーロー番組を扱う『トクサツガガガ』ならではの話題、読者の皆さんにも大人気の『獅風怒闘ジュウショウワン』や『救急機エマージェイソン』といった、名シーン&名セリフたっぷりの劇中作について、その制作秘話をたっぷりと教えていただきました。
そして、多くの特撮ファンの読者が気になる、丹羽先生が実際に好きな特撮ヒーロー番組の話題も、たっぷりとお届けします!!
人気劇中作『ジュウショウワン』描写の秘密とは!?
──『トクサツガガガ』の魅力というと、やはり劇中作である架空ヒーロー番組『獅風怒闘ジュウショウワン』の凝った描写にもあると思います。単体ヒーローや5人編成のチームでなく、あえて3人編成+追加戦士ひとりのチームとした理由はあるのですか?
丹羽 なるべく現行のヒーロー作品と被らないようにしよう、と思いまして。
担当 架空のヒーロー番組の人数編成などについては、弊社で実際にヒーロー番組を扱っている「てれびくん」[注1]編集部とも相談しました。
──「てれびくん」は作中にも実際の誌名で登場していますね。「特典DVDは作品本編で絶対にないようなシチュエーションが登場する」とか「懸賞ハガキの年齢を書く欄で大人は困惑する」とか、やたら具体的な「あるある」まで(笑)。
担当 「てれびくん」が登場する際は、「てれびくん」編集部と相談しながら進めています。
──ところで、『ジュウショウワン』の数年前に放送していた同シリーズ作品という設定で、『異星探査ストレンジャーV』という劇中作も登場しますが、仲村さんが幼少の頃に見ていた『救急機エマージェイソン』は、これらとは違うシリーズに属する作品という解釈でいいのでしょうか?
丹羽 『エマージェイソン』は単体ヒーローという描写があるので、特撮ファンの方であればなんとなく(違うシリーズだと)理解していただけるかなと思って描いています。ただ、それほど特撮ヒーローに詳しくない読者の方にとっては、「現実の世界でも、(チーム全体が主役の)『スーパー戦隊』シリーズと、基本的に(主人公のヒーローは)ひとりの『仮面ライダー』シリーズがあって、過去には『メタルヒーロー[注2]』シリーズというものも……」とか言われても、話についてこれないじゃないですか(笑)。なので、そこは意図的にふわっとした描き方にとどめてあるんです。
──たしかに、そこでわざわざ読者へのハードルを上げる必要はないですよね(笑)。単行本6巻のカバーで着彩されたエマージェイソンのイラストを見た際、このカラーリングは単体の特撮ヒーローにはあまり多くは使われない色だなと思ったのですが、それも現実の作品との区別を意識して?
丹羽 作中に登場する番組は、『ジュウショウワン』にかぎらず、基本的には実際にある作品とカブらないようにというところに気を使ってますね。
──現実の世界でのいわゆる「ニチアサ[注3]」と呼ばれる時間帯では、「スーパー戦隊」シリーズと「仮面ライダー」シリーズという特撮ヒーロー作品が2本と、「プリキュア[注4]」シリーズという女児向けのアニメが1本、順番に放送されているわけですが、『トクサツガガガ』の世界の日曜朝は、特撮と女児向けアニメ(『ラブキュートMAX!』)が、それぞれ1本ずつのみ存在しています。これも同様の考えからなのでしょうか?
丹羽 そうですね。ひとつひとつの作品の違いを明確に描きわけても、ジャンルに詳しくない読者の皆さんは混乱するでしょうし、まずは「特オタ」という存在を一般の読者の方に認識していただかないことには、話がなにも始まりませんから。もっと厳密に言えば、「トミカヒーロー[注5]」シリーズのような位置にあるようなものも出てきませんし(笑)。
──なるほど。では、深夜特撮[注6]のように、キッズ向けの『ジュウショウワン』とは明確にターゲット層が異なることがわかるジャンルは劇中作として描かれていますが、現実における「ウルトラマン」シリーズのような巨大ヒーローものはどうですか?
丹羽 それに関しては、私自身がそこを深く描けるほど知識がないという理由もあるんです。世代的に、シリーズの空白期間だったりもしたので。今後は怪獣のほうも積極的に知識を増やしていきたいと思っていたりするんですが……。
──それはぜひ、いつか作品にも反映させてください! もう仲村さん、ミニチュアセットには興味を持っているようですし(笑)。
丹羽 ああ、タテガミ丸(『ジュウショウワン』の巨大ロボット)のエピソード。
──タテガミ丸の合体ロボ玩具など、劇中作に関するアイテムも『トクサツガガガ』には多く登場します。これらを描くにあたって、意識されていることはありますか?
丹羽 しばらく後に読まれることがあっても違和感がないように、普遍性があるものをチョイスするようにしています。カプセルトイや合体ロボ玩具の話は、おそらく後の世代の人にも伝わるネタだと思うんですけど、もう少し踏み込んで、たとえばデータのカードゲーム[注7]のようなものまで描いてしまうと、ひょっとすると何をやっているのか伝わらなくなってしまうかも……とか心配になっちゃうんですよ。
──ゲーム関係はバージョンアップが何度も行われますからね。あとがきのマンガでも、同じような理由でインターネットの描写をあえて少なくしていることに触れられてましたね。
丹羽 SNS的な要素は、本来ならば今の特オタには欠かせないものかもしれませんが、ネットの世界は特に移り変わりが激しいですからね。
- [注1]「てれびくん」 小学館から刊行されている、児童向けのテレビ情報誌で、1976年の創刊という老舗雑誌のひとつ。編集部による愛蔵版ムック「超全集」シリーズを含め、特撮ファンならマストバイといえるアイテムのひとつ。
- [注2]メタルヒーロー 1982年の『宇宙刑事ギャバン』から1998年の『テツワン探偵ロボタック』まで、約17年にわたって放送された特撮テレビシリーズ。『ギャバン』『宇宙刑事シャリバン』『宇宙刑事シャイダー』のシリーズ初期作品(宇宙刑事三部作)は、近年、劇場版やオリジナルビデオ作品として復活している。
- [注3]ニチアサ ニチアサキッズタイム。日曜朝にテレビ朝日系列で放送される、子ども向け番組の放送時間帯の呼称で、ファンからは「スーパー戦隊」「平成ライダー」「プリキュア」3シリーズの愛称として使用されることが多い。2007年から2011年までは、戦隊の前に放送されるキッズ向けアニメを含め、公式で使用されていた。
- [注4]プリキュア 2004年の『ふたりはプリキュア』から続く、人気の女児向けアニメシリーズ。2016年は第13作『魔法つかいプリキュア!』が放送中。
- [注5]トミカヒーロー 2008年の『トミカヒーロー レスキューフォース』と翌年の『トミカヒーロー レスキューファイアー』の特撮ヒーロー二部作。タイトルのとおり、タカラトミーの玩具・トミカがモチーフとして使用されていた。なお、2006年に放送されていた『魔弾戦記リュウケンドー』も、本シリーズと関わりの深い作品のひとつである。
- [注6]深夜特撮 雨宮慶太監督による「牙狼」シリーズを筆頭に、『ライオン丸G』や『Sh15uya』『キューティーハニー THE LIVE』など、キッズ向けの特撮ヒーロー番組とは異なり、深夜枠で放送されることを前提に製作された特撮番組。そのため、やや過激なバイオレンス描写やグロテスクな表現、お色気や下ネタ要素などが目立つ場合も。
- [注7]データのカードゲーム ゲームセンターなどに設置されている筐体でカードのデータ読み取って遊ぶ、トレーディングカードアーケードゲーム。バンダイの「データカードダス」シリーズなどには、アニメや特撮ヒーローをモチーフとした、児童向けゲームが多い。