日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『放課後プレイ High Heels』
『電撃4コマ コレクション 放課後プレイ High Heels』 第3巻
黒咲練導 KADOKAWA ¥780+税
(2017年3月27日発売)
なにかとサドっ気が目立つも、いざという時に強く押されると照れ屋な受け気質も見せる「彼女」。
しょっちゅう部屋にこもってはいろんなハードでゲームを遊んでばかりの「彼氏」。
そんな2人が放課後に「彼氏」の家でだらだらゲームをプレイしては雑談し、合間にお互いすきあらばイチャイチャちゅっちゅとスキンシップを仕掛けあう日常を、静かに、それでいてねっとり濃厚に描く4コママンガ『放課後プレイ』。
第2巻・第3巻・TRPGを題材にした『放課後プレイR』……と、巻を重ねるたびに主役カップルを別キャラに交代しつつ、同作者の『レセプタクル』などほか作品の登場人物も含めたクロスオーバーで奥行きをもたせてきたシリーズが、3月にとうとう最終巻の刊行を迎えた。
最終シリーズ「High Heels」は、再び1作目の「彼氏」「彼女」を主役にしており、ゲーム要素とイチャイチャ要素の配分は、どちらかというと後者が強い。
そして、そのイチャイチャというのが曲者で、シリーズ最大の特色だと再確認できる内容になっている。
2人の身体コミュニケーションは、必ずしも明るく楽しい雰囲気ではない。
ふっと沸きあがる興奮に突き動かされて、相手に傷を刻みこまんばかりの危うい情念が、すべてのページ、すべてのコマに塗りこめられている。
ついさっきまでゲームを遊んで日常会話をしていたのと同じ空間で、まるで熱に浮かされたような様子の少女が少年の顔をハイヒールで踏みつけ、少年がその靴の底を噛む図の暗い愉悦。
女の子が男の子に「あーん」でおやつを食べさせてあげる鉄板のラブコメシチュエーションも、この著者にかかれば無抵抗な者の口のなかを徹底的になぶって唾液まみれになるまで蹂躙する壮絶なSMのビジュアルとなる。
そうして、題名『放課後プレイ』の「プレイ」に、とてもエロティックでフェティッシュな意味が重ねられるのだ。
この時注目したいのは、「彼女」のキャラクターデザイン、とりわけ、黒くつややかに長くのびて乱れる髪だ。
それはまるで愛人を拘束する荒縄を比喩するような剣呑さをただよわせて非常に危うい美しさをたたえ、暴力性のある行為も絆として引きこむ「プレイ」が、非日常的なのに説得力のあるものとしても読める支えを生んでいる。
本作が完結したのは、掲載媒体である「電撃4コマ」(雑誌「電撃PlayStation」付録の小冊子)が終了したことによる都合なので、作品自体にはまだまだポテンシャルがあったはず。
ファンには心惜しまれる幕引きではあるが、ともあれ黒咲練導先生が今後も上質なフェティシズムに満ちたマンガを描き続けてくれることに期待を寄せて、今はただ放課後にたわむれる恋人たちを見送ることにしよう。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメやマンガ、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム35年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7