365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
6月12日は恋人の日。本日読むべきマンガは……。
『藤子・F・不二雄大全集 少年SF短編』 第1巻
藤子・F・不二雄 小学館 ¥1,600+税
6月12日は「恋人の日」。
ブラジルの縁結びの神様・聖アントニオの命日の前日を祝う「恋人の日」は、恋人同士が自分の写真を入れたフォトフレームを贈りあうもの。
日本では全国額縁組合連合会がこの記念日の普及に努めていて、恋人同士のみならず、家族や友人との縁を深めるためにフォトフレームを贈ることを推奨しているのだとか。
そんな今日におススメするのは、恋人がいなければつくってしまえばいいじゃない、という藤子・F・不二雄の「恋人製造法」(『藤子・F・不二雄大全集 少年SF短編集』第1巻に収録)。
「恋人製造法」は1979年に「週刊少年サンデー」に描かれた少年SF短編。
主人公の少年・内男は、クラスメイトの毛利麻理と友だちになりたいが声もかけられない小心者。
いつものごとく声がけ作戦に失敗した帰り道、内男は漂着した小型UFOを拾う。
瀕死の宇宙人にカップラーメンをあげたお礼に、なんでも望みをかなえてくれるというのだ。
そういえば『チンプイ』でもエリちゃんはチンプイにラーメンを食べさせて懐柔していた。
宇宙人にはラーメンを食べさせておけばまず外さないということなのだ。
内男は宇宙人に毛利麻理と親密になりたいと望みを告げる。
積極性がない内男に「きみ専用の毛利麻理を作るがよい」と宇宙人がくれたのは「インスタント・クローニング装置」。
これでクラスメイトの憧れの女の子をつくってしまおうというのだ!
藤子・F・不二雄の代表作『ドラえもん』では、のび太の願いをひみつ道具でいろいろとかなえるが、こんな思春期男子の夢までかなえてくれるのですか!?と聞きたくなる。
しかしクローンをつくるには麻理の髪の毛が必要だ。
アクシデント的に髪の毛の入手にも成功し、クローニングを始める内男。
大きく育ったマユのなかから現れたのは、一糸まとわぬ麻理だった!
できたてのコピー麻理は姿かたちこそホンモノと変わらないが、中身は生まれたての赤ん坊と変わらない。かわいいコピーの面倒を甲斐甲斐しくみる内男。
望んでいたものとは違い、まるで親子のような関係に戸惑わないでもなかったが、家に帰れば自分だけの麻理がいる生活は楽しいものだった。
しかしコピーの成長は早い。
知識を吸収したコピー麻理は、みんなと同じように表に出たがるようになる。
日が経つにつれ、家族にコピー麻理を育てていることを隠しているのが難しくなりつつあった。
だんだんコピー麻理を持てあましてしまう内男のところに、宇宙人がひょっこり顔を出す。用事ついでにちょっと顔を出したという風情で、気のいいおじさんポジションのキャラクターが味わい深い。
コピー麻理の幽閉生活を聞かされ、コピー人間にも人権があるのだと憤る宇宙人。
しかしコピー麻理は内男から離れようとしない。
内男が下した決断とは!?
藤子・F・不二雄の作品に対して「生活SF」という言葉がよく使われるが、「恋人製造法」もまさにその内のひとつ。
コピー人間をつくり出すまでを描くのではなく、つくり出したあとの生活をどうするのか、という部分に重きが置かれているのだ。
食事は? 家族の目は? 排泄は? 着るものは? お風呂は? 食費は?
そしてなによりコピー人間の気持ちは?
ふしぎな道具立てで非日常的な展開を描きながらも日常的な視点を忘れない。
藤子・F・不二雄の描く物語を絵空事ではなくリアルと感じられるのは、こうした部分でウソを描いていないからだろう。
それにしてもかねがね「藤子・F・不二雄先生は「週刊少年サンデー」に「宇宙船製造法」「恋人製造法」を描いているのに、なんでもう1本描いて「製造法3部作」にしてくれなかったんだろう?」と長年思い続けてきたが、今回「週刊少年サンデー」掲載作品を読みかえしていてハタと気づいた。
「ひとりぼっちの宇宙戦争」、「おれ、夕子」、「恋人製造法」の3本で、「週刊少年サンデー」に発表された「クローン3部作」だったんですね、先生ぇ!
ここにタイトルをあげた短編はすべて『藤子・F・不二雄大全集 少年SF短編集』第1巻に収録されているので、ぜひまとめてお読みください。
<文・秋山哲茂>
フリーの編集・ライター。怪獣とマンガとSF好き。主な著書に『ウルトラ博物館』、『ドラえもん深読みガイド』(小学館)、『藤子・F・不二雄キャラクターズ Fグッズ大行進!』(徳間書店)など。学年誌の傑作ウルトラ記事を集めた新刊『学年誌 ウルトラ伝説』が6月28日に発売! 4コマ雑誌を読みながら風呂につかるのが喜びのチャンピオン紳士(見習い)。