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8月7日は「バナナの日」 『大東京ビンボー生活マニュアル』を読もう! 【きょうのマンガ】

2017/08/07


365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。

8月7日はバナナの日。本日読むべきマンガは……。


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『大東京ビンボー生活マニュアル』 第2巻
前川つかさ 講談社 ¥485+税


本日8月7日は、8(ハ→バ)と7(ナナ)の語呂合わせで「バナナの日」。
暑さでバテやすい夏に、栄養いっぱいのバナナを食べて元気をつけようという主旨で「日本バナナ輸入組合」が2001年に定めた記念日だ。

明治時代に日本へやってきたバナナは、戦後しばらくまで庶民には手を出しづらい高級品だった……という語り草も今は昔。
日本バナナ輸入組合が実施する意識調査では、2005年の調査開始以来ずっとバナナが「よく食べる果物」のトップについており、憧れの舶来品が今やごく身近な家庭食品になった様子を確認できる

さて、今日の記念日に合わせてピックアップするのは、『大東京ビンボー生活マニュアル』というマンガ。
1980年代後半の「モーニング」連載作で、とある青年の超節約スローライフ術をウンチク紹介的につづるショートストーリー集である。

主人公・コースケは、杉並区にあるボロいアパートでひとり暮らし中。
たまにバイトをする程度で定職にはつかず、所持金が数百~数十円という日もしょっちゅうのド貧乏だ。

家具もなければテレビもラジオもない。水道はあるがガスは引いてない。
温かい料理をつくる時は、隣に住む学生からカセットコンロを借りてくる。ナベやフライパンも借りものだ。
食費をかけられないので安い乾麺でパスタをつくることが多いが、ちょくちょくカノジョが訪ねてきてはお菓子や弁当を差し入れてくれるおかげで、それなりに栄養がとれている様子……。
デートの時にも出費は完全回避で、交通には学生さんから借りた定期券を使い、飲み食い遊びは基本カノジョのおごり。よくフラれないなこいつ。

まわりの人からギブ&ギブ。自分のほうはテイク&テイク。
両方あわせてギブ&テイクでバランスとれてるね、というスタイルをつらぬくコースケの生き方はとんでもなく身勝手だが、本人がまったく卑下もなく世を拗ねることもないため、おおらかな雰囲気がまわりの人々に好かれているのかもしれない。

そんな本作のなかでバナナが出てくるのは、第2巻収録の第54話「組み合わせ」という回。
貧乏ゆえに食材の種類が限られるなか、組みあわせによってメニューを豊かにしよう、という筋で「バナナサンド」なるものが考案されるくだりである。

 ・6枚切り食パン1枚の一面にピーナツバターを塗りたくる。
 ・輪切りにしたバナナを7~8つほどのせる。
 ・もう1枚の食パンで挟んで、サンドイッチにする。

工程はこれだけだが、食べたコースケの表情描写と相まって、「ちょっと試してみたらかなりイケた」感にあふれ、読者もつい実践したくなる場面になっている。

ここでおもしろいのは、かつて高級品扱いだったバナナが、貧乏ライフハックの材料として使われている点だ。
もっというと、コースケの「ビンボー生活」は東京という都会のインフラに頼ることを前提としており、家のなかには何もないが外にはモノもヒトもある、という意味では、ぜいたくさに満ちているという言い方もできる。

昨今、「断捨離」「持たない暮らし」といった生活スタイルの提言が流行っているのに対して、それって実際は“都会に持たせる”丸投げでは? という指摘がよく返される。
『大東京ビンボー生活マニュアル』は、1980年代の作品にして最初から「持たない暮らしは都市生活者のぜいたく」という切り口をもうけて、それがずうずうしいものだという事実からは逃げず、マンガの魅力に転換したところを、今こそ再評価したい。

そうしたことを考える際、バナナが持つ位置づけの時代的な変遷はいいとっかかりになるだろう。



<文・宮本直毅>
ライター。アニメやマンガ、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム35年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論 増補改訂版』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7

単行本情報

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