『TATSUMI 新装版』
辰巳ヨシヒロ 青林工藝舎 \1,200+税
(2015年5月25日発売)
エリック・クー監督の映画作品『TATSUMI マンガに革命を起こした男』が昨年、日本でも公開され、幅広い注目を集めるも、今年3月、享年79歳で惜しまれつつもこの世を去った「劇画の生みの親」、辰巳ヨシヒロの作品集が増補復刊された。
これは映画の作中でアニメーション化された「地獄」「はいってます」「男一発」「いとしのモンキー」「グッドバイ」の5作品に同時期の3作品を加え、青林工藝舎より2011年に発行された『TATSUMI』に、'79年の単行本未収録作「弔鐘」を追加収録したもの。
彼の代表作を網羅したベスト盤的作品集で、著者あとがきに詳細な年譜、辰巳を世界に送り出した立役者である浅川満寛による解説もつき、初めて辰巳作品に触れる読者には格好の一冊だ。
社会の底辺に生きる人々の悲哀や屈折を描き、地味ながらも熱狂的なファンを生み出してきた辰巳ヨシヒロ。
「劇画」というと「古臭い・野暮ったい」イメージを持つ人もいるだろうが、その諸作に通底するのは、「現代の孤独や不条理」という極めてコンテンポラリーで文学的テーマであり、いなたくもポップな画風、オフビートでリリカルな語り口は、エイドリアン・トミーネなど、90年代アメリカのオルタナティヴ・コミックに通じるものがあり(というか、エイドリアン・トミーネは辰巳ヨシヒロからの影響を公言している)、時代を感じさせない新鮮な魅力がある。
とにかく名作ぞろいだが、なかでも「飼育」「グッドバイ」の、どうしようもない情けなさとやさしさ、やぶれかぶれのユーモアに滲みだす詩情がたまらない!
「週刊漫画Times」初出の劇レア作「弔鐘」のラストシーンのすばらしさには、絶句。
『TATSUMI』を所有のファンも、これ一作のために買って損ナシ、だ。
<文・井口啓子 >
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて『おんな漫遊記』連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69