日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『Tシャツ日和』
『Tシャツ日和』
芳崎せいむ 太田出版 ¥1,000+税
(2015年12月3日発売)
Tシャツにまつわる様々な人間ドラマを綴った短編集。
第1話をネットで読み、漫画家の押崎西武(って!)が語る「俺にとっての漫画Tシャツは過酷な修羅場を乗り切るための戦闘服」というTシャツ論にうなずき、人間が「装うこと」の意味を考えさせられたりしつつも、でも、たかがTシャツだよ……と思っていた私は、まだまだ浅はかでした。
カルト野球マンガ『アストロ球団』のTシャツと庵野秀明監督の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』製作時の感動的エピソード「庵野監督の場合」をはじめ、ストーンズTシャツをキーにした地球人と宇宙人の交流を描いたファンタジー「転がる惑星」、ポドロフスキーの映画Tシャツをキーにした男女三人の青春グラフィティ「ポドロフスキーのダンス」などなど。
まさかTシャツ1枚でここまで多彩なドラマが生まれようとは、さすが『金魚屋古書店』の著者!
話じたいは、ありがちといえばありがちなのだが、変化球なエピソードをうまく挿んで、ドキッとさせたり、ほのぼのさせたり、緩急にとんだ展開が光る。
ポドロフスキーにもビックリだが、ダニエル・ジョンストンの怪獣~『マグノリア』のカエルのファフロツキーズまで、そのテのファンならニヤリとせずにいられないネタも満載で楽しい。
余談ですが、かくいう私も近所でナスカ・カーTシャツを着た男性を見かけた際には、思わず声をかけそうになったし。
なるほどTシャツとは意思表明であり、着て歩くメディアなだけに、まだまだ話が広げられそう。
ぜひ、続編にも期待!
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69