365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
3月19日はカメラ発明記念日。本日読むべきマンガは……。
『藤子・F・不二雄大全集 SF・異色短編』第2巻
藤子・F・不二雄 小学館 ¥1,600+税
3月19日は「カメラ発明記念日」。
1839年のこの日、フランスのルイ・マンデ・ダゲールが「ダゲレオタイプ」と呼ばれる写真機を発明した。
それ以前の技法では日中の野外でも8時間ほどの露光時間を要したという。「ダゲレオタイプ」は露光時間を20分ほどに短縮したというから、いかに画期的なシステムだったかということだろう。
そんなカメラ発明記念日におすすめしたいのが、藤子・F・不二雄が様々なカメラを題材に描いた連作SF短編「カメラシリーズ」だ。
奇妙な風体の男・ヨドバ氏が売り歩く、不思議な機能を持ったカメラが巻き起こす騒動を描いた「カメラシリーズ」は、「タイムカメラ」、「ミニチュア製造カメラ」、「値ぶみカメラ」、「同録スチール」、「夢カメラ」、「コラージュカメラ」、「懐古の客」、「四海鏡」、「丑の刻禍冥羅」の全9本。
そう、カメラを売り歩くから「ヨドバ氏」なのですね。
メモリを合わせて過去を写し出すことができるタイムカメラ、写した無機物を精巧なミニチュアとして複製するミニチュア製造カメラ、被写体の価値を表示する値ぶみカメラといった、ドラえもんのひみつ道具のような便利なカメラが続々と登場する。
じつはヨドバ氏は未来からパック旅行で現代にやって来た時間旅行者であること、「懐古の客」で明かされる。
彼はふとしたアクシデントでツアーに置いてきぼりをくらい、ひとり現代に取り残されてしまったというわけ。
カメラのセールスをしていたヨドバ氏は、手もとに残ったカメラを売り歩きながら糊口をしのいでいるのだ。哀れ。
さて、普通の生活にそうした不思議なカメラがどういった役割を果たすのか。いまいちうまく進展しないカップル、隠居したての無趣味な男、2人の男の間で揺れる年頃の娘など、様々な立場の人が手にしたカメラの物語が描かれていく。
ところで「カメラ発明記念日」とされる3月19日だが、実際には「ダゲレオタイプ」の発明日を裏づける資料はないそうだ。
判明している事実としては、「ダゲレオ」タイプカメラの販売開始日が1839年8月19日なのだとか。
どうやらだれかが8と3を誤認して3月19日を「カメラの日」としてしまったのではないかとも言われており、なんともそそっかしい話だ。
そんなてん末も、未来からのパックツアーに置いてきぼりにされたヨドバ氏の身上にリンクして、結果的にこの日がカメラの記念日でいいんじゃないかという気になってくる。
やっぱり3月19日は「カメラシリーズ」を読んで、ヨドバ氏のことを思い出そう。
<文・秋山哲茂>
フリーの編集・ライター。怪獣とマンガとSF好き。主な著書に『ウルトラ博物館』、『ドラえもん深読みガイド』(小学館)、『藤子・F・不二雄キャラクターズ Fグッズ大行進!』(徳間書店)など。4コマ雑誌を読みながら風呂につかるのが喜びのチャンピオン紳士(見習い)。