日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『恋するヤンキーガール』
『恋するヤンキーガール』 第1巻
おりはらさちこ 双葉社 ¥700+税
(2016年6月28日発売)
双葉社の4コマコミック雑誌「月刊まんがタウン」に連載中の『恋するヤンキーガール』が、6月下旬に初単行本化を迎えた。
小心者の中学生男子・風間ナギがひとりの女子生徒にからまれている図から幕を開ける。
腰まで伸ばした黒髪ロング、足首まですっぽりの長いスカート、短い眉に鋭い三白眼。
いかにも古典的なザ・不良少女スタイルで人々に恐れられる彼女の名は、須藤アヤメという。
ナギを壁際へ追いつめるアヤメ。突きつけるのは、これまた古典的なフレーズだ。
「ちょっと… 付き合えや」
どこかへ連れ出されてボコボコにシメられるのか!?
戦慄しつつも逆らえない少年の口から漏れた声は「はひ…」という、情けないYESの返事。
と、ここで急転直下。
アヤメさんは顔を真っ赤にして騒ぎだし、そばに待機していた取り巻きとお祝いムードへ突入する。
その場でさっと掲げられた幕には、デカデカと“祝 お付き合い成立”の文字が……。
そう、「付き合えや」は恋愛的な意味だったのだ!
かくして、不良少女の告白の言葉を誤解して返事したら、返事の言葉を誤解されて恋人関係になってしまった少年。勘違いを解消したいが、別れる意志を示したらどんな目にあわされるか……と悩む日々が始まった。
同時に、彼女と関わるにつれ、どうもイメージと実態にズレが見えてくる。
長いスカートをはくのは下半身のスタイルを気にしているせい、長い髪はナギくんの好みを考えてお姫様カットを選んだから……と、そのいでたちにはいちいちかわいらしい理由があったのだ。
さらに、デートひとつするにも、下の名前で呼びあうだけでも、すごい意気ごみで顔を真っ赤にしながら突進してくる姿はなんともいじらしい。
アヤメちゃん、不良あつかいされているが、じつは超・純真な乙女でもあるのだ。
でも不良だし! やっぱコワいし!
そんな具合に、少女のコワさとかわいさの間で翻弄されるさまが焦点となる。
最初のうちは、読んでいて「勘違いで不良少女に厄介かけられてたいへんだなぁ」とナギくんの苦労を忍ぶほうに重心がかかる。
しかしアヤメちゃんの一途さが重ねて描かれるにつれ、「こんないい子をなんでイヤがるの!?」とヒロイン側の肩をもちたい人情が湧く。
ひとつの関係で同じ状況が続いても、応援したいキャラが移り変わるのが本作のおもしろみだ。
願わくば、アヤメちゃんのために、誤解の恋人が真実となりますように……。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメや漫画、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7