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9月9日は弘兼憲史(漫画家)の誕生日 『課長島耕作』を読もう! 【きょうのマンガ】

2016/09/09


365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。

9月9日は弘兼憲史(漫画家)の誕生日。本日読むべきマンガは……。


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『講談社漫画文庫 新装版 課長島耕作』 第1巻
弘兼憲史 講談社 ¥750+税


9月9日は漫画家・弘兼憲史の誕生日。ライフワークともいえる『島耕作』シリーズをはじめ、1話完結のスタイルで様々な人たちの人生を切り取ってみせる『人間交差点』や、ごく普通のサラリーマンから政治家へと転身する主人公を軸に、日本独特の政界模様を描く『加治隆介の議』、そして熟年・老年のリアルな恋愛をテーマとした『黄昏流星群』など、その代表作はだれもが知るところだろう。

そして本日紹介する作品は、もちろん『課長島耕作』。
今や〈島耕作サーガ〉と呼びたくなるほど多くの関連作品が存在するシリーズの第1作というだけでなく、弘兼先生が漫画家となる以前は松下電器産業(現在のパナソニック)の広告宣伝部に在籍していたという経歴が、もっともダイレクトに反映されているのも注目したいポイント。

さらに、じつは島耕作のプロフィールとして設定されている「1947年9月9日生まれ・山口県岩国市出身、最終学歴は1970年3月早稲田大学法学部卒」というのは、弘兼先生自身の経歴と完全に一致! 主人公が著者の分身であることはあらゆる作品でよくあることだが、ここまでパーフェクトな分身っぷりはなかなかのもの。
つまり、本日は島耕作の誕生日でもあるので、まずは「お誕生日おめでとうございます!」といっておきたいと思います。(なお、島耕作のプロフィールが判明するのは『ヤング島耕作』の劇中ということも、いちおう付け加えておこう)

ところで、『島耕作』シリーズは多くの人に親しまれている作品だが、若い世代の読者や、あるいはいわゆるサラリーマン的な生活と無縁な人には、まったく興味の範囲外ということもあるかもしれない。
しかし、たとえば『ONE PIECE』の読者は、みなさん海賊ですか? 違いますよね? だからサラリーマンじゃない人が『島耕作』シリーズを読んでも楽しめないかといえば、そんなことは絶対にありません!

まず、『島耕作』シリーズのすばらしい点は、優れた作品に共通してあげられるであろう、細部に至るまでリアルに描写された世界観……って、「そりゃ会社員の話なんだから当たり前だろ!」と思われるかもしれないが、現実世界が舞台の作品でも、そこがフワフワしてることは存外少なくない。
その点『島耕作』シリーズは、背景からちょっとした小道具ひとつまで、弘兼先生の実体験と精力的な取材にもとづく描写が行き届いており、リアリティは100点満点。それほど世界観の描写がしっかりしているからこそ、「飄々とした主人公が小悪党どもを退けながら結果的に出世をはたし、オマケに魅惑的な美女にモテモテ」という、そこだけ切りとると「そんなファンタジーありえないだろ!」といいたくなるような物語も、すんなり読むことができるのだ。

もちろん、島耕作がただラッキーボーイというだけでなく、同僚のほろ苦い退職だとか、あるいは自身に振りかかる離婚や左遷という超絶トラブルも描写されている。
にもかかわらず、それとて最終的には結果オーライにしてしまう「心の持ちよう」こそが彼の魅力。

ほかにも、ここぞという場面で粋なはからいを見せる友人や、逆に意外すぎる人物の裏切りなど、あらゆる人間ドラマが詰まったこの作品。
「考証の行き届いた世界観で繰り広げられる、魅力的なキャラクターによる冒険譚」として『島耕作』シリーズをとらえれば、ぜんぜん興味なかった人でも読んでみたくなってくるんじゃないでしょうか? ……って、何もそんな解釈をせずとも、ごく普通に読めば、ごく普通におもしろいゾ!

なお、『課長島耕作』の初期エピソードには、今読むとありえないぐらいのセクハラ面接を島耕作がやらかすエピソードなんかもあったりはするが、それも連載開始が1983年という時代背景ゆえのこと。
現在連載中の『会長島耕作』では若い時代のオフィスラブ要素はすっかり影を潜め、日本の農業問題や国益を考えるまでに至っております。
そんな、ひとりのキャラクターの変遷を追えるのも、このシリーズの魅力。まずは1冊、手にとっていただきたい次第。



<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。

単行本情報

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