日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『だがしかし』
『だがしかし』 第6巻
コトヤマ 小学館 ¥429+税
(2016年10月18日発売)
ド田舎の片隅にある駄菓子屋の息子だが、店を継ぐのをいやがり漫画家を目指す少年・鹿田ココノツ。
実家の大手菓子会社へココノツの父をスカウトするため、ココノツに跡を継がせようと都会から押しかけて駄菓子の魅力をハイテンションでプレゼンしまくる社長令嬢・枝垂(しだれ)ほたる。
この2人と周囲の知人友人が、うまい棒やらヨーグレットやら商品名をがんがん出して駄菓子トリビアを語りつつ、コントめいたボケとツッコミを繰り広げる唯一無二の“実在駄菓子マンガ”、それが『だがしかし』だ。
「週刊少年サンデー」にて1編10ページ前後のショート枠で連載が始まり2年以上が経過、単行本は6巻目を数える。
「餅太郎」をお題に、駄菓子で「太郎」というネーミングが多いのはなぜか……とクイズを出す時のほたるさんが見せる絶妙なウザかわいさや、手羽先は駄菓子と呼べるのか問題にふれる遠藤妹ことサヤ師の素朴な視点、「ミニおっぱいキャンデー」のオッパイ概念を深く追求する遠藤兄のエロ思索など、各キャラまんべんなく駄菓子ネタを担って笑わせてくれる。
だが、それ以上に、今回は作品全体が根本的な節目を迎える巻として必見である。
ココノツとほたるさんの関係は、性別も生まれ育ちも異なる2人がひとつの共通点で強くつながるボーイミーツガールの図だ。
ドタバタ喜劇をやっていても、どこかつねに甘酸っぱい青春劇のテイストがある。
ほたるさんがあくまでも外からの訪問者であること、そして劇中の時期設定からして、2人の間にはつねに、ひと夏の物語という空気がただよい続けてきた。
既巻を通して読むと、この夏が過ぎ去ったらいったいどうなるのか? と読者の物思いをうながす演出がちょくちょく挟まれていることにお気づきになることだろう。
そして、とうとう最新巻で、「その時」がきてしまうのだ。
いつもともに騒いでいる幼なじみの遠藤兄妹をおいて、2人きりで出かけた花火大会。
くじ運のなさが尋常ではないはずのほたるさんが、珍しく当たりを引いたホームランバーアイスの棒。
何かがいつもと違う運びだが、ココノツはほたるさんの意味深な言動に気づかない。
いつもどおりに遊び、いつもどおりに彼女を見送ったつもりで、自分の環境が大きな変化を迎えたことにあとから気づくことになる。
この展開を雑誌連載で読んだ時の感覚を何にたとえればいいか……永遠の夏休みを描いていたかのように思えた『侵略!イカ娘』が最終回を迎えた時くらいの「あーっ、ついに」感といいますか……。
これまで2人のなりゆきを追いかけてきた読者諸氏は、ぜひ最新巻もお手に取って、『だがしかし』ワールドの何かが終わり何かが始まる区切りの目撃者となっていただきたい。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメやマンガ、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7