日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい！WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー！

今回紹介するのは、『妻に恋する66の方法』

『妻に恋する66の方法』 第1巻
福満しげゆき 講談社 ￥590+税
（2016年10月21日発売）

ネガティヴで鬱屈とした自意識を描く著者としてマイナーな支持を集め、結婚後は妻との生活を題材にした一連のコミックエッセイで熱心な固定ファンを集める、福満しげゆき。

本作は、いわゆるハウツーものを模したスタイルになってはいるが、内容はいつもの妻モノ。
「妻を改造しよう」ではなく「妻に恋をしよう」という発想が、いかにも福満氏らしい。

福満氏は妻のカワイイ面だけでなく、奇妙で理不尽な言動や身内にしか見せない恥ずかしい一面をつぶさに描いてみせる。読者としては、その隠し撮りカメラをのぞき見るような無防備さがたまらなくイイわけで。福満氏のマニアックな観察眼にも「愛」があふれていて、ホッコリさせられる。

人間というものは、何かにつけ足りないことばかりを嘆き、もっとほかによいものがあるのではないかと必死で探し求め、すでに手にしているものの価値に気づけない。

ドロドロした家族モノが流行の昨今、妻を「カワイイカワイイ」といってる人なんて、たんにおめでたいか、よっぽど相性のいい夫婦だと思ってしまう人は少なくないだろう。
だが、『青い鳥』よろしく「幸福」とは、すでに手にしているもののなかにあるのだ。

それにしても、妻さんの自由気ままで変カワイイ言動や仕草は、猫マンガにも負けないいやしパワーあり。

本作では、10年前に編集者から猫を飼って猫マンガを描くことをすすめられ、断ったことを後悔するエピソードも登場するのだが、猫マンガも飽和状態の今、福満氏はむしろ先見の明があったといえるわけで。山崎ナオコーラさんの『かわいい夫』といい、「妻／夫かわいいモノ」は今後、目からウロコのブームとなりそうな予感大！

妻がいない人も、本作を読んできょうから擬似・愛妻家生活を満喫してみて。

＜文・井口啓子＞
ライター。月刊「ミーツリージョナル」（京阪神エルマガジン社）にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」（DU BOOKS）寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69