回を重ねるごとに少年マンガのツボがつかめてきた
――学園主体と思いきや、裏市がでてきたのも意外でしたね。当初は、世界観を示すひとつの描写だと思っていたので、ここまで濃厚に絡んでくるとは。
板垣 私としても、こんなに比重が高くなるとは思わなかったです。でも、裏市の話を描くのが楽しくなってきて。みんなが欲望に正直になっている場所なので。
――肉食動物と草食動物の違いや、共存のあり方、問題点を生々しく描きやすいのが裏市?
板垣 そうですね。まだ単行本に入ってないですが、裏市にも経営者側の草食動物がいて……最初は考えてもいなかったけど「そういうやつもいるよね」と思いついて楽しくなったり。描きながら発見があります。
――裏市の場面が増えて、ゴウヒンさんの存在感も大きくなっていますよね。この役どころがパンダというのも、パンダのパブリックイメージを裏切っていておもしろい!
板垣 かわいい動物というイメージですが、クマですからね……。クマなのに笹しか食べないところが好きです。笹しか食べないって、おかしいですよね。しかも、絶対おいしいと思ってなさそうだし! 不思議な動物ですよね、白黒の比率も変わってるし。
――動物の生態は、作品にどのくらい忠実に反映させようと?
板垣 マンガに描いておもしろくなりそうな、この生態が魅力的だなと思うところをピックアップして描いています。たとえばルイの角が生え替わるとか。 シマウマの柄は草原の景色にまぎれるためにあるという話が好きなので、学校での生態時間のエピソードに入れこんだり。
――生態時間のエピソードはおもしろいなと思いました! 随所に差しこまれるこの世界ならではの小ネタも楽しみです。
板垣 自分で世界をつくるからにはキャラにストレスを与えたくなくて。ルールが多い世界ですが、できるだけ快適に過ごしてほしいと思っているので!
――ルイが裏市の世界に行ってしまうのも、意外な展開でした。
板垣 これも決めていたわけではないのですが、ルイは叩けば叩くほど強くなる、魅力的になるキャラだと初登場くらいからぼんやり思っていて。いつか挫折させたいな、と。こういうかたちになるとは思ってなかったですが、いじめぬいてますね。いじめるほど深みが増して、好きになっていくキャラクターです。でも、ルイがステーキを食べるシーンは描いていて心が痛みましたね。自分もおなかが痛くなってきて……。
――板垣先生は、読者としては少年マンガには触れてこなかったそうですね。
板垣 子どもの頃は「ちゃお」が大好きで。でも、少女マンガを描く才能は自分にはないなと思って……。ほかにはエッセイマンガや、青年マンガをよく読んでいました。中学生からはマンガよりも、映画をたくさん観てきて。
――“大きいストーリー”は映画から補給してきたのでしょうか。
板垣 映画はいろいろ観ているほうだと思うんですが、ファンタジーやSFよりも人間ドラマ的なのが好きで。一番好きなのは『ブラック・スワン』。追い詰められた極限状態の、人間の果てを見るような映画が好きなんです。『ソウ』の1作目とか、黒澤明監督の『生きる』とか。あと、家族で見てた『白い巨塔』のドラマが好きです。人間のこわいところも、いいところも見せてくれる作品だと思います。
――群像劇で、ハードな事件が起こった時に向かわざるを得ない個々の本質や問題点が見えてくるところは『BEASTARS』と共通しているかも。だから「動物版青春ヒューマンドラマ」というキャッチコピーになるんですね。少年マンガ誌で連載するにあたって気をつけていることなどはありますか?
板垣 会話のシーンを描くのが好きなんですけど、そればかりにならないように。それから、主人公の正義感を大事にすること。応援したくなる主人公にしないといけないなと。「週刊少年チャンピオン」のほかの連載作を読んでいるうちに、少年マンガの気持ちよさがだんだんわかってきて、レゴシもだんだん少年マンガの主人公っぽくなってきてるんじゃないでしょうか。
――最近とみに変わってきましたよね。アクション、ダイナミックなシーンも増えてきていますし。
板垣 ページをめくったときにハッとする感じ、緩急から伝わる気持ちよさを重視するようになってきました。少年マンガの世界は奥深いです。まだまだ勉強中ですが。