1人ひとりの悩みをていねいに描いて、みんながそれぞれのゴールに到達できるように
――こんなふうに先生が日々感じていることがヒントになることもあるんでしょうか。
板垣 わりと……人と話していると、いろんなことを考えるじゃないですか。正しさってなんだろうとか。自分はこの人のこういう発言が嫌だと感じるけど、その人にはこういう背景があるからその発言がでるんだろうとか。それぞれにたいへんさがあるんだなと思うことが多いです。
――人それぞれ、ケースバイケースですよね。ひと言でいい切れることはなくて。たとえば「へこんでる人にがんばれっていっちゃいけない」とか、決めつけるのもいかがなものかとかと思うんですが。今って、みんながもののいい方にデリケートになっている時代なので。
板垣 それ、めっちゃ思います! 少し過敏じゃないかと……。
――「オレを草食でまとめるな!」とルイがいい放つシーンはカッコよかったですね。少なくとも自分に関しては、手加減するな、と。
板垣 1対1で話さなきゃいけないことって山ほどあって、問題を外から見ている側だけの人間がガヤガヤいいすぎだなと感じることがあります。ここでレゴシとルイがちゃんとお互いの主張をできたのはよかったと思っています。
――「みんなそれぞれに違ってみんないい」と肯定しつつ、ぶつかりあって認めあう、いろいろな共存のしかたが描かれていると思います。
板垣 私自身、毎週発見があるんです。ルイとジュノが2人きりで話しあった回で、2人のことがすごく好きになれたし。ジュノがルイにこんな感情を抱いてたのかとか。毎週いろんなことを見つけていくみたいなライブ感があって、自分にとっては日記のような存在でもあって。だから、まだ客観的には読み返せないのかもしれません。
――「ビースター」がだれになるのか、それによって世界がどうなるのかを描くのはまだだいぶ先ですか?
板垣 今描いてる事件解決パートのあとで、そろそろと思いますが。そのためには、だれにするかを決めなきゃいけないんですよね。
――え、そこも決めてなかったんですね!
板垣 だれでもいい気がしていて……みんながちゃんと自分の納得のいく終着点に着くことができれば。
――「食殺犯人探し」も、「ビースター」の決定も話の筋としては重要だけど、それがだれであるかが物語の答えではないんですね。
板垣 私が描きたいのは、大きいゴールがあってみんながそれに向かっていくより、小さいゴールがいくつもあって、みんながそれぞれ散っていく物語なのかなと思うんです。
――そこも含めて『BEASTARS』は“多様性の物語”なのでしょうか。
板垣 あまり少年マンガっぽくないビジョンかもしれないですけど、『BEASTARS』はそのほうがいいのかなと。
――少年マンガの直球ではないですが、すごく現代性のある物語だと思います。
板垣 風刺しようという気持ちはないですが、キャラクター1人ひとりの悩みを描いていった結果、社会の実像が浮かんでくるようなところはあるのかもしれません。キャラが増えるにつれて描くことも増えるので、どんどん掘ろうと思えば掘れるのですが、終わりはきれいに迎えたいし。そこは考え始めてます。
――そのうちに描いてみたいテーマや題材はありますか?
板垣 人間の話は描いてみたいです。もっと日常的な話でもいいし。でも、私が描くとやっぱり変な話になっちゃいそうな気もしますが(笑)。いつか描いてみたいのは、同性愛です。異なる種族間のものを描いているから、同じもの同士の関係に興味が向いているのだと思います。男同士、女同士といってもBLや百合というジャンルではない、人間の同性同士の物語を描いてみたいです。
――いつか読めるのを楽しみにしています! 最後に読者へのメッセージをお願いします。
板垣 いよいよ第1話の食殺事件の回収をちゃんとしますので……最初から読み返しながら楽しんでいただけたらと思います。これからもよろしくお願いいたします。
――ありがとうございました。
コミックス第9巻は、明日7月6日発売です!!
『BEASTARS』 第9巻
板垣巴留 秋田書店 ¥429+税
(2018年7月6日発売)
取材・構成:粟生こずえ