男女の性差への幻想と現実を描いていく
――中学生編ではユウタが女子特有のグループにある微妙な空気感に戸惑う姿が描かれてますよね。中学生の頃って、男女がいちばん分離してる時期で、男子は女子のそういう空気に気付いてないことも多いので、まさに「入れ替わったからこそわかる」部分だなあと。
将良 中学生の女子グループの微妙な空気感とかは実際に自分が体験してきて、トラウマになるぐらいだったので、そういうのがそのまんま反映されてます(笑)。
逆に、男子はわりと無邪気に描いてます。これも私の勝手な思い込みなんですけど、男子は小学生から成人して大人になってもずっと仲のいい人が私のまわりでは多いような気がして。女性、というか私がわりと淡白な友だちつきあいをしてきたこともあって、男同士の他意のない友情みたいなのに憧れがあるんですね。
――ユウタがいわゆる無邪気なヤンチャ男子で、ユイが意地っ張りな優等生タイプ……という設定も、将良先生の趣味というか願望?
将良 そうですね。男の子は元気なのが好きだし、入れ替わるわけなので、女の子は対照的なタイプで反発するぐらいのほうがおもしろいかなと思って、ユイは優等生の“ええかっこしい”にしたんです。だけど、どんな人でもそういう性格になる理由があるわけなんで、そこもちゃんと描かなきゃと思ってます。
――入れ替わったユウタが、ユイの両親がうまくいってないことを知った時に、これまでのユイとのやりとりを思い出しながらその裏を察して、「もうあんなこと言うのはやめとこう……」と反省するシーンとか、まさにそうですよね。
将良 たとえば、小学校の友だちから「あの頃、じつは家庭環境がつらかった」みたいな話を聞いて、「そういえば思い当たることはあったけど、当時はわからなかったなあ……」とか、「あの子はなんでこうなんだろう」っていうのも、追っていくとちゃんと理由があるんですよね。ユウタは入れ替わったからこそ、初めてそこに気付けたんですけど、普通はなかなか気付けない。中学ぐらいまでは、なんだかんだいってなにも考えずに過ごしていたので、社会人になってから昔のことをちゃんと考えてみると、今さらわかることが多くて。自然にそういうのが出てるのかもしれません。
――そういう繊細で奥行きのある心理描写にはうならされます。わりと最初のほうで、ユウタの親友でカズマという入れ替わりの秘密を知ってるキャラクターが出てくるのは、斬新ともいえますがそこは?
将良 話の進行上、そういう理解者であり解説者みたいな人がいたほうが描きやすいかなっていう理由もあります。でも、やっぱり、秘密を打ち明けられる友だちがいたらいいなって思って。
――わかります、男同士の友情萌え。
将良 自分が人間関係のややこしさを知ってるからこそ、 マンガの中では美しい友情で結ばれていほしいという願望です(笑)。
――男子にも女子になってみたいと思うことが少なからずあると思うのですが、その幻想を『思春期ビターチェンジ』は打ち砕いている感じはありますね。うわぁ女子ってたいへんなんだな……って。
将良 なるほど。アイドルとかのかわいい映像を見てると、私も「女の子っていいな~」って思うんですけど、やっぱり絶対的にそうなれない自分がいるから、幻想を崩したいって気持ちはなくはないかも。実際いいことばかりじゃないぞ、と(笑)。
■次回予告
インタビュー後編では、突如現れた超新星・将良先生のルーツ、そして気になりすぎる第4巻以降の新展開が明らかに!?
取材・構成:井口啓子
撮影:辺見真也