アニメ化もされた話題作『惡の華』が、掲載誌「別冊少年マガジン」6月号(2014年5月9日発売)にて最終回を迎えた。今回は連載終了直後のタイミングで、押見修造先生にお話をうかがった。最終11巻が発売した今、改めて『惡の華』とは何だったのかを振り返る。また本日、6月14日から公開の映画『スイートプールサイド』についても語っていただいた。
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【インタビュー】告白したシーンを描いたら終わりのその先が見えた。『惡の華』押見先生【中編】
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【インタビュー】14歳が一番エロい! そして次回作は…… 『惡の華』押見先生【後編】
『惡の華』連載開始までの経緯
――4年半に及ぶ連載が終了しました。いまの心境はいかがでしょうか?
押見 うーん、虚脱感が……。
――ホッとした?
押見 ホッとした感じではないんです。『惡の華』が終わったら、次の作品についてすぐ考えたいな、って思っていたんですけど、まだ頭がボーッとしている感じです。
――脱稿したのはいつですか?
押見 ゴールデンウィーク前です。
――じゃあ、本当に終わったばかり(取材日は5月16日)、って心持ちですね。
押見 そうです、「終わったばかり」です。
――では連載を振り返っていただくとして、『惡の華』は新雑誌創刊[注1]と同時に連載が開始されました。既存の雑誌だと読者層などは想定しやすかったと思いますが、その点、今作はどうだったんですか?
押見 まあ、それまでも読者層とかあまり意識したことないんですけどね(笑)。ただ、ずっと青年誌で描いてきましたので、少年誌で描くのもおもしろそうだな、と思いました。
――少年誌での連載は初めて?
押見 初めてです。それまで、そんなに少年誌自体を読むほうでもなかったので。
――押見先生のマンガ遍歴は『まんが秘宝 男のための青春まんがクロニクル』[注2]で拝見しました。
押見 少年マンガはスッポリ抜け落ちてるんですよね。
――押見先生は少年マンガについて、どのようなイメージを持っていました?
押見 「週刊少年ジャンプ」は小学生のときに読んでいました。だから『アウターゾーン』[注3]のイメージです。「少年誌だから健全な作品じゃないといけないのかな?」と一瞬思ったんですが、創刊編集長と担当さんにお会いして話をしたら、そんな感じの人ではなかったので、「ああ、好き勝手やっていいんだな」と(笑)。
――雑誌創刊時には、よく雑誌テーマが設定されたりするじゃないですか。「週刊少年ジャンプ」だと「友情、努力、勝利」とよく言われていますけど。押見先生も連載されていた「ヤングマガジン」は「ちょっとマイナー」だったとか。
押見 あ、それは知らなかった。
――創刊当初だけで、やっていくうちに変わっていくとは思いますけどね。で、今回の「別マガ」はというと「絶望」……。
押見 「絶望」(笑)。僕は「絶望(のなかの希望)」と、「のなかの希望」まで聞いたんですが、「絶望」ってすごくインパクトがありますよね。
――そこは意識しました?
押見 「少年誌だから云々」は考えなくていいんだな、とは思いました。創刊編集長の朴鐘顕さんにお会いしたときに引き合いに出されたのが、谷崎潤一郎とか『ヒミズ』[注4]でしたから。
――少年誌じゃないですよね(笑)
押見 僕も「じゃあ、それで」とお願いしました(笑)
――ラジオ番組「荻上チキ Session22」[注5]に出演されたとき、作品をつくる際には「最初にテーマを決めて、設定などは後からつける」とおっしゃっていました。
押見 そうですね。テーマは抽象的なところから入るんですけど、『惡の華』に関しては「思春期を抜け出るまで」がテーマでした。最初はもう簡単に「思春期モノ」で「変態的なモチーフ」で……(笑)。
――変態で(笑)。
押見 思春期あるあるとか、中二病[注5]あるある的な話では終わりたくなかったですけど。あとは担当さんから「純愛モノ」とリクエストされたので、「純愛かぁ……」と悩みました。
――そこは押見先生なりの“純愛”で。
押見 そう、自分なりの。まあ、なんて言うんでしょうねえ……。快活な、表通り側の純愛を描くのは、自分には無理なので。
――陽のあたらないところで育った子の“純愛”を。
押見 そうですね、そうやって自分なりの定義で考えていったときに、体操着を盗む話になったんです。
――押見先生のほかの作品だと、幽体離脱とか、ネットカフェが漂流するとか、設定面でのワンアイデアがすごくインパクトがあります。それらに比べると「体操着泥棒」はパンチが弱い……ってことはないですよね、ほかが強すぎるんですが(笑)
押見 たしかに強いですね(笑)。
――そのあたりで最初は不安はありませんでした?
押見 逆に今回は、その設定部分を強くしないように意識していました。
――できるだけ普通の話にしようと?
押見 そうです。話を作るときは、まず描きたいテーマとかドロドロしたものがあって、それをマンガの形にするときに、たとえばSF的な要素とかそういう設定が必要だったんです。でも、ちょっと設定に引っ張られてしまうようなところがあって、テーマとは無関係なところでがんばらなきゃいけない部分もあったんです。たとえば『漂流ネットカフェ』だと、なんで漂流したのかを、うまくテーマと結びつけるのが難しかった。だとしたら、そういうところはなくして、キャラや話の展開だけで見せる作品もやってみたいな、と思っていたんです。
――体操着を盗むとか、笛を舐めるとか、よく聞く話ですしね。
押見 そうですよね。あとは、机になにか擦りつけたり……とかですか? 仲村さんみたいな子が身近にいるかどうかはさておき、誰にでも起こりうる話だと思っています。
- [注1]月刊誌「別冊少年マガジン」(講談社)の創刊は2009年9月9日。『惡の華』は創刊号か ら連載をスタートした。
- [注2] 洋泉社刊。押見先生が読んできたマンガ、影響を受けた作品を語っている。おもに「ガ ロ」(青林堂)系の作品や、青年マンガ、エロマンガがメイン。
- [注3]「週刊少年ジャンプ」(集英社)掲載作品。作者は光原伸。オカルトやミステリーを題材とし た、1話完結型のオムニバス形式。毎回登場するアウターゾーンへの案内役・ミザリィ が、なかなかエロく、当時の少年をドキドキさせた。
- [注4] 「ヤングマガジン」に連載された古谷実の作品。主人公の中学生・住田祐一が、不遇なが らも平凡な生活から転落していく様が描かれる。それまでギャグマンガを描いてきた古谷実が新機軸を開拓した作品でもある。2012年には園子温監督で実写映画化された。
- [注5] TBSラジオにて毎週月~金曜日の22時~24時55分に放送。メインパーソナリティは評論 家の荻上チキ。2014年2月12日放送回に押見先生が出演。押見先生の著作『志乃ちゃん は自分の名前が言えない』(太田出版)と吃音の問題や、『惡の華』について語られた。