自分の単行本を返本する書店員時代! その経験がヒット作につながって
久世 デビューしたものの、その後が……ネームをいろいろ送ってはいたけど通らなかったんです。そこで、マンガだけで暮らしていけないと観念して、本屋さんでバイトを始めることにしました。
——やっぱり本が好きだったから?
久世 それもありますけど、新規オープンのお店だったので一からしっかり教えてもらえそうだなと思ったので。まさか、その経験がのちにマンガになるとは思いませんでしたね。
——デビュー単行本が出たのは、本屋さんで働いている頃ですよね。
久世 働きながらじりじりネームを通して……単行本が出たときはうれしかったんですが、同時に自分の本の売れなさを目の当たりにするという、恐ろしい経験をしました(笑)。
——過酷ですね(笑)。
久世 私の作品だと知ってる仲良しのバイト仲間が、容赦なく返品するんですよ!? あと、チェーン店のデータを見て傷ついたりしてました。何冊入れて、いつ返本したかのデータが見られるんですよ。入荷してすぐに返本しちゃう店もあったりして、「××店め、覚えてろ~!」なんて心の中で叫んだり。でも、そうはいっても書店員の立場もわかりますから、仕方ないとは思うんですけど。今でも、書店に置いてもらうことがどんなにありがたいかは、いつも身に染みて感じてます。
——『暴れん坊本屋さん』(新書館)を描き始めた頃は、まだ書店でバイトをしていたんですよね。
久世 3巻が発売されるのを見届けてから書店をやめて、東京に出てきました。
——それまでも単行本は出されていたわけですが、『暴れん坊本屋さん』は当初から手応えを感じていましたか?
久世 いえ、まさかこれが売れると思っていませんでした。「何が受けるかわからないな、この世界は運だな」と思いました!
——本屋さんをネタにするのは編集さんからの提案で?
久世 そうです。最初は少女マンガを考えてたんですよ。5人くらいイケメンがいる書店のストーリーマンガのネームを出したら、「こういうのより自分が出てくるエッセイマンガのほうがおもしろいんじゃない?」と言われて。
——最初から乗って描いてる雰囲気を感じます。
久世 実際、書店のスタッフもおもしろい人が多かったので。ときには頭にくることもありましたけど、そこはなるべくおもしろく描いて。
——この、一度見たら忘れない番子キャラはどうやって生まれたんですか?
久世 これは同人誌時代から、自画像キャラとして描いていたものです。編集さんが「これを使えばいいじゃない」と。
——改めて見ると、独創的なデザインですよね!
久世 いっしょに同人誌をやってた友だちの自画像がアザラシだったので、じゃあ私はペンギンにしようと。ペンギンに……見えないですけど(笑)。
——くちばしはペンギンですけど……なぜ身体を肌色に?
久世 もとは身体はブルーのつもりだったんですけど、ほっぺたを赤くしたかったんですよ。そこで、ブルーはエプロンに持っていったんです。ほっぺたを赤くしたときにきれいなのは、やっぱり魚肉ソーセージ色だなと。
——魚肉ソーセージ色!? 言いえて妙ですね!
久世 印刷屋さんに「もう少し肌をピンクっぽく」とオーダーすると、紫がかって出てきちゃうことがあるんです。「魚肉ソーセージの色で」って指定すると一発で伝わるんですよ(笑)。
——日本人ならみんなピンとくる表現ですね。これは出版・印刷業界の共通認識にしたい!