ボードレールの『悪の華』と、映画『小さな悪の華』
――今回の作品『惡の華』を描くにあたって、ボードレールの『悪の華』は読み返しました?
押見 全然していないです。あえて読まないようにしました。自分が中学生のときに、ワケがわからないなりに一生懸命読んだイメージを描きたかったので。読み直すと、そっちに引っ張られちゃうかな、と思ってました。今読んだら、全然違うふうに読めるんだろうな、とは思いますけどね。
――ロフトプラスワンなんかで「押見先生と『悪の華』を読む会」とかやったら、おもしろそうですよね。
押見 どうですかねぇ(笑)。ま、ちょっとは読みました。中学生編が終わってからは、「読んでもいいかな」と思えたので。
――ご自身が中学時代に読んだときのイメージを活かすために、あえて中学編終了までは読まなかったわけですね?
押見 そうです。終盤のあるタイミングで、春日が阿部良雄訳の『悪の華』を読むシーンがあるんです。中学時代に読んでいた堀口大學訳ではなくて。それは僕も読んだことがなかったので、そこを描くときに阿部訳をちょっと読んでみたんです。
――どうでした?
押見 すごくわかりやすくて、おもしろい。中学生のときは格好つけるために読んでいたんですけど、改めて読むと、なんか愛らしい感じがしますね。
――格好つけるため(笑)。第1話で春日が「オレは本を読んでいる!」って言いますけど、中学時代にああいう感覚ありましたね。
押見 あのセリフは、共感してくれる人が多いんですよ(笑)
――ちなみに、映画『小さな悪の華』[注5]は、いつご覧になりました?
押見 1巻収録のエピソードを描いている最中かな? 一度、町山智浩[注6]さんにお会いする機会があったんです。そのときに「『小さな悪の華』でしょ、あれ」と言われて。
――7巻までの展開を読んでからなら、そこを指摘されるのもわかる気がします。しかし1巻の時点とは、それは慧眼というか。
押見 ビックリしました。僕自身、その時点ではまだ映画を見ていなかったんですが、町山さんのポッドキャストで『小さな悪の華』の評論を聞いていたんです。それがすごく印象に残っていたので、その影響が出ていたんじゃないかと思います。あと『惡の華』というタイトルや、主人公がボードレールを崇拝している点で、そう思ったみたいですね。
――実際にご覧になって、いかがでした?
押見 いやぁ、すごくいい映画で。あれを見たから、夏祭り(6~7巻)ではああいった展開にしたんです。
――完全に意識してその先を、と。
押見 そうです。
- 注5 1970年公開のフランス映画。監督ジョエル・セリア。1954年にニュージーランドのクラ イストチャーチで起きた、アン・ペリーとその友人による殺人事件が元になっている。寄 宿学校の女子生徒ふたりが、さまざまな悪事に手を染めていく内容。ラストは修道院の学 芸会でふたりの少女が3編の詩(ジュール・ラフォルグ『哀れな若者の嘆き』、ボード レール『恋人たちの死』『旅』)を朗読したのち、ガソリンを体に浴び、みずから放火し て火に包まれる。 なお、『恋人たちの死』と『旅』は、『悪の華』の5番目の章「死」のなかに収録されて いる。
- 注6 カリフォルニア州バークレー在住の映画評論家。TBSラジオ「たまむすび」に出演中。著 書に『映画の見方がわかる本―『2001年宇宙の旅』から『未知との遭遇』まで』(洋泉 社)、『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』(文藝春秋)など。雑誌 「映画秘宝」(洋泉社) の創刊人としても有名。 『惡の華』2巻のオビに推薦文を書いている。また、「別マガ」掲載作品でもある『進撃 の巨人』(諫山創)の実写映画版では、脚本家に名を連ねている。
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取材・構成:加山竜司
撮影:辺見真也